(2)マニラを訪れる人たち

そして、ツアー一行の来比の日を迎えた。平瀬からツアーはマニラ到着後市内観光をしてからホテルにチェックインすると聞いていたので、四時半頃ホテルへ行きロビーで待った。程なくしてツアー一行を乗せた大型バスがホテルの玄関に着いた。ガイドが一八人の団員と添乗員を引き連れ、中二階へ上がった。

そこには椅子が整然と並べられており、団体のチェックインをする場所だった。正嗣は手続きが終わるまで、後ろの片隅で待つことにした。ホテルの日本人スタッフが部屋の鍵を持って平瀬と一緒に上がってきた。このホテルの日本人スタッフとは四月に退職した八若の次男の(じょう)だった。

息子がミッドランドラムタラホテルで働いているという話は聞いていたが、会うのは初めてだった。牛乳瓶の底のような分厚いレンズのメガネをかけ、ころっとした体型をしているので、どこか親しみを感じさせる。

八若丈がホテルの部屋の使い方の説明を若干訛り気味の独特の口調で終えると、添乗員が一八人の部屋番号を発表し、それに呼応しガイドが一人一人に鍵を配った。鍵をもらった人たちは一塊となってエレベーターの入口へ向かった。

正嗣は一行の幹事役の東雲電具の小山内(おさない)、アリーゼツーリストの添乗員の鴨下(かもした)、ホテルのアシスタントセールスマネージャーの八若丈の三人と名刺交換した。八若は挨拶を終えるとフロントへもどっていった。正嗣は小山内と鴨下に明日の朝からの同行の許可を取った。

午後の一行の到着時間に合わせ工場で待っていてもよかったのだが、一人で工場へ行くのも面倒だしタガイタイへもまだ行っていなかったので、ツアーに便乗して工場へ行くことにしたのだ。明日の出発予定時刻は午前九時半とのことだった。

平瀬と鴨下はその後打ち合わせがあるとのことでコーヒーショップへ移った。小山内も部屋に上がったので正嗣は一人残された。その日はもう特にすることもなかったので、ロビーラウンジでお茶でも飲んで終業時間まで時間をつぶすことにした。