「ウチの二年生が、龍城ケ丘も人数が減っちゃったって、言ってましたけど」

「んー、今、どうにか十一人。今年の一年は三人しか入部しなかったから、単独でティーム作れなくなっちゃってさ」

そういえば、あの先生は? 佑子が思ったその瞬間、山本先輩の背後から大声が響く。

「大磯東さん、来たのかぁ!」

やはり、昔のままだ。花はな田だ 先生という小柄な先生だけれど、龍城ケ丘ラグビー部を強豪に育て上げた名伯楽だ。とにかく部活中は生徒を叱り続ける人だった。試合の度に、葉山高のメンバーはその大声に微苦笑をもらしていたものだ。頭はすっかり白くなったけれど、相変わらずの大きな声で、それでも佑子に丁寧な口調で話しかけてくれた。

「若い先生ですな。花田です。よろしくお願いします」

「あの、先生は覚えておられないと思いますが、私、葉山高校ラグビー部でマネージャーやってました。もう十年近く前になりますけど。和泉と申します。先生、懐かしいです」

あはは、と大口を開けて花田先生は笑った。思い出してくれたのか、ポンと手を打つ。

「あの頃の葉山さんは、強かったからなぁ。ウチも一度、やられたことがあった。ウン、覚えていますよ。この山本が葉山高出身と聞いてびっくりしたものですが」

練習着に着替えて、空気を入れたボールをそれぞれ手にした大磯東の部員たちがグラウンドにやって来た。真っ直ぐ前を向いているのは足立くんだけで、一年生たちは無表情のまま、目が泳いでいる。山本先輩がグラウンドに散っていた龍城ケ丘の部員たちに集合の声をかける。全員が白いジャージに身を包んだメンバーが、小走りに集まって来る。

「じゃあ、合同練習を始めよう。近くにあっても最近はあんまり交流がなかったけどな。これが第一回だ。龍城キャプテン、自己紹介と挨拶」

山本先輩が促すと、分厚い胸を反らして三年生のキャプテンが一歩を踏み出す。その声音や態度は、やはり堂々としたものだ。続いて、大磯東キャプテン、と、山本先輩の声を受けて、足立くんが前に出る。たった一人の二年生なのだから、キャプテンになるのは当然なのだけれど、基からキャプテンと呼ばれた日に、砂浜から学校に戻りながら、佑子に小さな声で訊いたのだ。

「オレなんかが、キャプテンでいいんですかね」

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。