三 美味しい食の話

4 おめでたい

卯月は入学式、入社式の季節。わくわくする気持ちと多少の不安の入り交じった心持ちで、式典にのぞむ。いずれも晴れがましい、さわやかで厳粛な行事だ。そうだ! そうだ! 八重・九重に咲く桜の季節の到来だ。いろいろな美味しいものも出回る。

海辺では潮干狩り。自ら獲ったあさりは、さも大切なもののように家に持ち帰り、楽しく味わう。春の恵みの最たる魚は、鯛。魚のなかでも美味なる王様といわれる。

この時期の鯛は、身も締まり、脂ものり、姿や色つやも美しく、「桜鯛」と呼ばれる。おめでたい、そして縁起の良い魚として、お祝い事には欠かせない。鯛はこの季節を過ぎると、魚卵を持ち、その身の味は薄くなる。でも、その魚卵を薄味で煮て日本酒といただくと、口のなかに広がる繊細で深い滋味に、「日本に生まれてよかったなあ!」と感じる瞬間でもある。

鯛は余すところがないといわれる。もっとも鯛の骨はきわめて固く、これは無理だ。瀬戸内海の「浜焼き」は、お土産やご進物として使われる。はじめは漁師さんの素朴な思いつきから生まれたものだろう。浜焼きはそのままいただいても美味しい。

また、お湯を注いで、お椀でいただくのも乙な味だ。でも、一番美味しいのは、鯛の頭の部分。よく鯛の兜焼きとか兜煮と言うが、骨の近くの身は絶妙な味わいがする。私は、どだい横着な人間だけれど、ことお魚に関しては身一片たりとも余さずにいただく特殊技能を持っている。

家族によく言われる。『これじゃミーちゃんがかわいそうだ!』私は特に鯛のお腹のなかの「腸(ワタ)」とか「卵」や「白子」が好きである。なかでも汁ものが好みで、白味噌仕立てで白子をいただく。それが美味の最たるものだと勝手に思い込んでいる。

鯛は鱗を落とし、皮をつけたまま調理するのを良しとする。なぜなら皮と身の間には、鯛の品のいい脂がのり、美味しく味わえるからである。常には鱗はまず食べない。しかし、鱗も手間ひまをかければ、美味しくいただけるのである。

「浜焼き」は皮に鱗が着いているから、皮と身はとうてい一緒にいただけるものではない。そこで、鱗のついた皮を身からはがし、とろ火で時間をかけ、きつね色に焼くのである。上手にでき上がると、まさかこれが鯛の鱗だとは思えないほどの美味しさとなる。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。