三 美味しい食の話

3 白いアスパラガス

春。それは、麗らかな日差しが芽吹いたばかりの木の葉の間からきらきらと降りそそぐ心地よい季節だ。また、美味しい食べ物がいただける時期でもある。

その春が旬の野菜の一つに、アスパラガスがある。私が子供の頃には、アスパラガスといえば缶詰の白いアスパラガスだった。マヨネーズをつけて食べると柔らかな舌触りが心地よく、美味しい美味しいと思ったものだ。

アスパラガスは西洋の食文化とともに日本に持ち込まれた野菜であり、フランス料理で供されることも多い。夏を迎えるパリで私がいただいたアスパラガスは、少年の頃の思い出とかくまで違うものかと不思議な感じがした。茹でたアスパラガスにバターと卵の黄身で作ったソースをかけたその料理は、飾り気や込み入った感じのないものだったが、繊細微妙なその風味は季節と見事に調和していた。

お皿に盛られたアスパラガスの白と、ソースの金色がかった乳白色の色彩は美しく、パリの街角で見かける美しく着飾った貴婦人を思い起こさせる。しばらくナイフとフォークを入れるのも忘れて見とれていた。シャンパンが合うなぁ……? と思い、注文した。

シャンパンはすべての料理によく合う、とフランス人は言う。冷えたシャンパンをいただき始め、期待感に胸を躍らせながらいよいよフォークを入れる。料理と、そのレストランのもてなし、開け放した窓から吹く風が、六月という季節の爽やかさを感じさせ、幸せなひと時だった。

料理をいただく間は何も考えず、ただその美味しさを五感で感じ、世の中の煩わしいこと、大切な自分の仕事のことすら、その一瞬忘れた。大げさに言えば『無我の境地』ということになるだろうか。

アスパラガスは、元はユリ科の植物だ。日本料理で用いられる淡白で味わい深い百合根も、アスパラガスと同じくユリ科の食材である。百合根の入る料理としては、ごくごく一般的なもので『茶椀蒸し』。お正月のおせち料理にも欠かせない。

日本料理も西洋料理と同じように、味だけでなく見せ方にも美的な工夫を凝らす。色鮮やかな食材の数多い中で、百合根もアスパラガスも白く、そして簡素だ。簡素と言っても、無機質だとかそっけないということではない。そこにあるのは不要なものがそぎ落とされた美しさだ。まるで磨き上げられた能舞台の上に、能楽師が立つごとく……。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。