私は耳を疑いました。生産計画に失敗したから、能力を上げた運転がしたい。しかし、自分たちには能力アップの自信がないから、能力アップに失敗して設備の故障などが発生したら私が全責任を取れとは、なんと虫がいい話なのでしょう。

課長は、はっきりと

「失敗したら、お前が全責任を取ってくれ」

と言いました。こんな話を聞き間違えるはずがありません。これで、私は、製造班長が

「人身御供が来た!」

と叫んだ理由が理解できました。私は、製造班長とは親しかったので、彼は彼なりに

「お前が人身御供にされる話だから注意しろ」

と私に警鐘を鳴らしてくれたのです。こんな無茶苦茶な話は、私も聞いたことがありませんでしたが、私は自分の検討に絶対の自信を持っていましたので、課長にこう答えたのです。

「〇〇課長。いいでしょう。その話、受けましょう。明日から1日14バッチに生産量を上げてください。それで、もし何かトラブルが起こったら、私が全責任を取ってあげましょう」

その間、製造班長と運転班長は一切口を開きませんでした。そして、その日のうちに、プラントの主要な運転条件を私から課長に連絡したのです。

翌日から、いきなり1日12バッチから14バッチに生産能力を上げた運転が始まりました。結果から言うと、私の検討どおり、何も異常は起こりませんでした。

そして、その運転課では「うちの課が検討して1日14バッチを達成した」と本社に報告したのです。私の名前は完全に闇から闇に葬られました。

【事例3】で、私の企画が盗まれ、提案者の私の名前が消し去られたという話を書きましたが、まったく同じことがここでも起こったのです。

この出来事は、【事例3】の後で起こったので、私も「ああ、またか!」と、今回はさほど気にも留めませんでした。

ただ、こんなにも人の功績を横取りする会社の風潮に嫌気がさすとともに、私が懸命に調査した1年間の努力は何だったのか、という激しい無力感にとらわれたのは確かです。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『心理学で職場の人間関係の罠から逃れる方法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。