あの時の道

人造湖から林に入れば

もうそこは人影の少ない山道

それにしても何という寂しさなのだろう

入り日の赤さが樹木を染めてふるえている

あの女の立った崩れそうな崖は補修されていた

近いと思った道は意外と時間がかかる

寺院の門は脇を通る

あの時は通りながら腰を抱き口づけをした

周りは山と湖と遠景の街、意外と良い景色ばかりだ

今、日が山に沈む

あの時、私は何を見ていたのだろう?

あの女は枯れ葉の音に耳を傾け、湖を愛でた

私は一人、日の暮れた道を引き返す

人造湖からの風は冷たく、柊を鳴らしていた

 
※本記事は、2021年7月刊行の書籍『黒い花I』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。