「よい人間とはどのような人か」を体験させたい

子どもが犠牲になる凶悪な事件が起こるたびに、いろいろなところから、見知らぬ人から声をかけられても応じないように、知らない人から誘われてもついて行かないように、と子どもに教える必要があると言われます。

マスコミや行政サイドから、一般市民や教育機関に対して注意を喚起するために言われるのはやむを得ないことだと思います。「簡単に人を信用してはいけない」「ことばたくみな誘いにのるとひどい目にあう」といったことが、家庭の大人から、学校の先生から、マスコミや一般の人からも子どもたちにさかんに言われます。簡単に人を信用してはならない、見知らぬ人とは口をきかない、という殺伐とした雰囲気が社会全体にただよっています。

保育園は一日のうち長時間にわたって子どもたちが生活する場です。また、登園してきたとき、そして降園のとき、子どもたちの保護者のかたと園の園長や職員とが直接顔を見てことばを交わすことのできる場です。

保育の場面では、子どもたちとうたをうたったり、うんどうあそびをしたり、製作を指導援助したり、ごはんやおやつを食べるときにはそれぞれの目的のためにことばがけをしますが、以上のほか、多くの生活場面で、いちいち目的を意識しないで子どもたちとことばを交わすことがあります。

また、保護者のかたとも子どもたちの横で、必要な連絡や伝達以外にもいわゆる雑談的な内容でことばを交わす場面が多くあります。子どもたちは、何かを教えたり、必要な連絡や伝達のためにことばを交わす場面よりも、雑談的な内容でことばを交わす場面によって、この人はこのような人であるとか、この人はよい人だというようなことを感じているように思います。このときに「よい人間とは」を具体的に体験するように思います。

保育園では、「見知らぬ人に声をかけられてもついて行ってはいけない」と教える以前に、「よい人間とはどのような人間であるか」を具体的に子どもたちに体験させたいと思います。保育園はそれを体験させることのできる唯一の場なのではないでしょうか。

わかば保育園では、多くの幼稚園で行われている儀礼的・観念的な次元のことばを子どもたち・保護者のかたと交わすのではなく、現実的・実体験的な次元のことばをできるだけ活発に交わすようにしています。