妊娠

結婚してすぐに妊娠した。運送会社での仕事は電話応対がメインであり、つわりの時期は吐き気と戦いながら働いた。空腹だと吐き気が強くなるので、常に炭酸レモン水を飲みながら仕事をした。トイレに駆け込むこともよくあったが、つらい、辞めたいと思うことはなかった。評価されながら働くことが楽しかったのだ。

出産後、1人で運転できないと何かと困ると思い、妊娠中に自動車免許を取った。

高校生の時から、母の車を勝手に乗り回していたから運転はうまい方で、運転が苦手な子が縁石に乗り上げた時、免許のない私が交代するほどだった。

初めてのミッションでの実技講習の日。

「これでギアチェンジして、クラッチはここにあるよ」

と教官から説明を受けながら、初めて知った! みたいな顔をする。下手な運転はどうやったらできるのか考えたが、結構これが難しい。スムーズに発進してしまった。

「慣れてるみたいだね」

「あ……」

私は試験を落とされるんじゃないかと思ったが、そういうわけではなく、

「長いことこの仕事やっていると、すぐわかるよ。教えるのも楽だし、よかった」

良いのか悪いのか、こんな調子で実技試験はあっさりパスした。

最後の筆記試験。妊娠中期であり、立ちくらみが頻繁に起きるようになっていた。

100人くらい入るような教室のど真ん中で私は試験を受けた。試験開始早々、ムカムカしてきた。

「やばいかも」

座っているにもかかわらず、くらくらする。危険を感じた私は、猛スピードで試験を解いた。最後の問題を解いている頃だっただろうか、限界を感じた。手を挙げたが、誰も来てくれない。今にも倒れそうだったので、教室の外に飛び出し、そこで意識を失った。

誰かが駆けつけてくれたのをうっすらと覚えている。目が覚めるとそこはベッドの上だった。

「おめでとう」

合格したみたいだ。よかった。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『腐ったみかんが医者になった日』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。