「さて、さっそくなんですが、輸液による敬一さんの現在の栄養管理法は、限界に近づきつつあります。どういうことかと申しますと、体の栄養状態を低栄養にならない状態に維持するのが困難な時期にきているということです。先だって奥様に簡単にご説明いたしましたが、点滴によって必要な栄養分を補給しているものの、どうしてもタンパク質が不足してしまうからです。それによって低タンパク血症を敬一さんは引き起こしています。それが、顔や足にむくみを生じはじめている原因です。

タンパク質が不足することで血液が薄くなり、血液中の血漿成分、つまり水分が皮下に染み出している状態なんですね。加えてカテーテルをこれ以上留置したままにしておくと、感染のリスクが高くなってきます。体の表面から、生体とは違ったいわゆる異物が血管内に入っているので、その異物に細菌が付着しやすくなるんです。通常の状態よりも著しく感染しやすくなっているということです。

もし、血液内に細菌が繁殖してしまうと、敗血症といって非常に危険な感染症を起こしてしまいます。これはかなり危険な病気ですから、そうならないように対処すべき時期にきているということです。したがいまして、敬一さんのカテーテルを来週には抜く必要があると、私は考えています」

──じゃあどうするのかしら?そう思った春菜は、自分の思いをぶつけるのと一緒に、益田医師に質問してみることにした。

「先生、私は父がこのまま食事もとれない、話もできない状態のままで寝たきりになりそうだと思っています。ただ、栄養に関しては、このまま点滴でいくのかなあ、であれば退院してからも大変だなあ、なんてひとりで考えていました。母は、私とは違ってまだまだ回復すると思っているようで、口から何かあげたいとよくつぶやいています。点滴の管、カテーテルでしたね、それを抜くということでしたら、点滴はもう行わないってことなんですか?点滴をやめた場合、ほかにどんな方法があるんですか?」

「そうですね、今後の敬一さんの状態について、あまり予断でもって説明してこなかったですね。それによって、不安を感じられたことはお許しください。私たちもどのぐらいまで回復するのか、しっかり予測できなかったんです。経過を見ながら判断するしかなかったというのが実情です」

「じゃあ、現在の時点で先生はどのように判断されているのですか?」

黙っていた和子さんはたまらず声を発した。あまり聞きたくない話ではあったが、春菜の考えはうすうす気づいていたのだ。彼女はここではっきりしておいたほうがいいと思った。

「私はうちの主人はもう口から食べることはおろか、話すことさえないと覚悟しています。だから、今後のことについてはあまり楽観してはいません。ただ、妻ですから、できるだけ希望は捨てないようにしています。それはあくまで私の心がけです。遠慮しないで、先生の判断をお聞かせください」