また、公益社団法人国土緑化推進機構では、2002年以降、造林手、杣師(そまし)のほか、漆塗り職人、茅葺き師、宮大工等、森とともに生きる知恵や技を持つ達人を、「森の名手・名人」として毎年選定している。また、2009年からは、全国漁港漁場協会及び全国内水面漁業協同組合連合会が、漁師や海女、船大工や釣竿づくりの職人等を「海・川の名人」として選定している。

これまでに選定された「名手・名人」は、森と海・川を合わせて1500名以上になっている。

さらに日本の木造建造物を受け継いでいくための宮大工や左官職人等の技術、「伝統建築工匠の技」が、ユネスコの無形文化遺産となった。

これらの技術は建造物修理、建造物木工、檜皮葺・柿葺、茅葺、檜皮採取、屋根板製作、茅採取、建造物装飾、建造物彩色、建造物漆塗、屋根瓦葺・本瓦葺、左官・日本壁、建具製作、畳製作、装潢修理技術、日本産漆生産・精製、縁付金箔製造という17の伝統技術で構成されている。

芸術や工芸には、それを支える材料と道具が必要である。大工や指物師には、よい木材と刃物、料理人にはよい食材と包丁や器が必要なのだ。

音楽家には、楽器づくりの職人が、書道家や画家には筆と墨や絵の具が必要である。漆を使う文化財の修復には年間約2トンの漆が必要とされているが、国内の漆の生産量は2016年で約1.3トンにとどまっており、林業の活性化も重要である。

ローテクは「ディープ・テク」へと進化する。このためのキーとなるのが「生物的生産力」の利用である。つまり、農林水産業はもちろん、森の生産力や水を利用した工芸品等の手仕事の復権である。

このような技術は、国際的な草の根技術協力にも役立つ。工業においても、自分の現場の自分の担当のことしかわからず、しかもすぐに交代してしまうような非正規化を行うのではなく、あらゆることに精通し目端が利くベテランの熟練工を大事にするべきである。

職人の技術と経験と誇りが、品質を維持し、新技術を編み出し、放っておくと事故に至るかもしれないさまざまな小さい兆候に気づかせるのである。農業や手仕事の労働は、特定の土地と結びつき、特定の技能や作用等と切り離せないもので、移植可能な労働ではない。土地の自然や風土、歴史や精神性、あるいは教育と結びついた労働は、地方創生とセットである。

職人芸の伝承はこれまで、弟子が一人前になるまでは師匠が食べさせてきた。しかし、BIがあれば、師匠は、弟子に食べさせる負担を考えずに修行させることができるようになる。これらの仕事、あるいは修行の場は、コミュニケーションが得意でなく、「一人きり」を好む人にとっては、意外に向いているかもしれない。BIは後継難の職人仕事の後継者づくりにもよい影響を及ぼす。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『ベーシックインカムから考える幸福のための安全保障』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。