青鬼「早くしろ! 早くしなさい!」

青鬼はすごい形相で皆を叱咤します。すると一人の男が、

罪人「おい青いのよ! おめーの面は忘れねーからおめーもよーく憶えとけよ!」

青鬼「何をつべこべ言いっているんだ! それより閻魔大王様によくお詫びするんだぞ! 二度と悪いことは致しませんとな!」

罪人「へえーどうもすんません、つい前の悪いくせが出ちまって」

青鬼「よしよし。わかったなら早く出て行きな」

出口から外の強い雨と風がびゅうびゅう入って来ます。とても歩けそうにありませんが、罪人達は皆びしょぬれになって素足でゴツゴツした岩肌を「痛い痛い」と言いいながら賽の河原へと歩き出しました。しかも、硫黄の匂いがむんむんするどしゃぶりの中をです……。

極楽駅前

しばらくすると青鬼の車掌さんが来て、私の隣りに腰掛けました。

青鬼「どうだった?」

私「いやぁ、かわいそうで見ている私の方が辛かったです」

青鬼「うん。お前は初めてだからな、俺はもうすっかり慣れたよ。初めはお前と同じように怖かったし、悩みもした。だけどお前達の世の中を少しでも明るい世の中にしてやりたい。そんな気持ちが自然と湧いてきて、そうだ人間界のため、人のためと思ったら、今度はやりがいがあると気がついた。

そしたら俄然やる気が出て、考えが変わったんだよ。人間を助ける! 丁度今、お前達の若者が中心になってボランティア活動をやっている! 俺は実に立派な運動だと感心して見ているんだ。困っている人を助ける運動は、俺達も空から見て『頑張れ‼』と応援したくなるんだ!」

そんな会話をしていると、いつの間にかどしゃぶりの雨も雷鳴も硫黄の強い匂いも消えて、代わりに何ともいえない上品な、すがすがしい香りが漂いはじめました。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『地獄・極楽列車 私と青鬼』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。