双頭の鷲は啼いたか

睡眠不足がすべての元凶だと気が付いたタケルは、できるだけ規則正しい生活をして早く病院に行こうと思った。

浩介の言うとおりだ。

仕事よりもあの悪夢や不眠を解決するには、事故の後遺症を疑うべきだとタケルは思った。

タケルは玄関でいつもと違う靴を出して、外へ出ようとした。

また、頭にキリでさすような痛みがタケルを襲った。

うずくまり頭に手をあてた。

大きく息を吸い、静かにはく。

何度か繰り返すうちに楽になった。

備え付けの下駄箱の横にある姿見に映る、苦痛のために自分の顔は歪んで見えた

時間だ、行かねば。

一歩踏み出してドアに鍵を差し込んで施錠した。

なんてことはない。

タケルはいつものように、電車に揺られ予備校の裏口に到着した。

最後にやってくる篠原さんはまだ来ていない。

腕時計を見て、もうこれ以上遅いのは許せないなと思っていた。

何も連絡はなかった。

篠原さんの尻拭いは毎度の事だとタケルはフロアの掃除機をかけて、受付カウンターの中で彼女からの連絡を待っていた。

少し汗ばんできたかなと思った頃に秋元さんが出社してきた。

少し様子がおかしい、いつもと違う。

体調が悪いのだろうかとタケルは思った。

うつむきノロノロと歩いてきた。

「おはよう、どうかしましたか。具合でも悪いの?」

「古谷さん、あの……」

秋元さんは大粒の涙を流し崩れるように椅子に腰かけた。

松永さんとタケルは困惑した顔で秋元さんを見ていた。

「何があったのですか?」

タケルはどうしたらいいのかわからず、掃除機を慌ててロッカーに放り込んで駆け付けた。

松永さんが彼女の話を聞いていた。

「ええっ!なんだって」

松永さんが叫んでパソコンの検索を始めた。

「篠原さんが亡くなったようだよ、古谷君」

「交通事故?ですか」

まさか、自分のように……。

「違うようです、古谷君テレビとか見てないのですか?僕だってそんな時間ないけど」

「僕は新聞は取っていませんし、電子版もあまり。テレビも見ないので」

うずくまり秋元さんは朝のテレビのニュースで顔と名前を見たと言いながら泣いていた。

パソコンの検索から、地元のニュースを松永さんが探し当てた。

「これですね、彼女の名前と年齢が同じでした。家から一キロほど先の道路の脇で倒れていたのを今朝発見されたようです」

「何てこと」

タケルは絶句した。

どうやら亡くなったのは昨夜の事だったらしく、事件と事故の両面から捜査と書かれていた。