その後、裁判所の駐車場に到着した時に姉が雄二に話しかけた。

「雄二ちゃん、悔しい気持ちは分かるけど、まずは確定調書を持っていって相続対象の口座がある銀行等でお金を受け取る手続きをするのが重要よ。そして、手続きをしてお金の受け取りがすべて終了したら、すぐに私の法律事務所へ来てちょうだい。そのときに、今回の調停がなぜこんな結末になったのか説明してあげます。分かった?」

雄二は首を縦に振ってから、私を急いで自家用車に乗せて銀行に向かった。

銀行では確定調書の内容を確認すると、コンピューターで対象口座を照会して残高分の現金を支払ってもらう事ができた。

2行ともスムーズに手続きが終了したので、今度は姉の法律事務所に向けて急いで出発した。

法律事務所に到着した私達は、応接室の中で待機するように言われたので、イスに座り出されたお茶を飲みながら姉が来るのを待っていた。

そんな状況で、私は雄二の顔を確認したら裁判所で見せていた怒りの表情ではなかったが、今回の事がまだ納得できないのか、黙ったまま真剣なまなざしでずっと机の上に置いてあるお茶椀を見つめながら考えごとをしていた。

ようやく姉が入室して、私達と反対側に座り深呼吸をしてから話し始めた。

「とりあえず、雄二ちゃんの相続分の受け取りまで終了できたのはよかったです。しかし、私もまさか本案件があんな結末になるとは考えてもいませんでした。雄二ちゃん、本当にごめんなさい!」

「伯母さん謝らないで下さい。調停のやり方をまったく知らなかった僕達を、一生懸命にサポートしてくれて逆に感謝の気持ちを表現する為に、頭を下げなければいけないのは僕の方です。本当にありがとうございました。ただ、今回の調停結果がなぜ僕達の考えていた内容とまったく違っていたのか、今も納得がいきません。すいませんが、僕達が理解できるように説明してもらえませんか」

姉は机の上に置いてあるお茶碗を、邪魔にならない所へ移動させてから話し始めた。

「分かりました。まず第1回目の調停で、私達は調停委員にあなたの元父親が離婚と再婚をして改名されたのと、両親だけでなく実子のあなた達も赤羽の苗字から薬師の苗字に改名されたので、戸籍等を提出して江藤光夫と薬師雄二が実の親子であることを最初に証明しました。次に妻の金子さんが雄二ちゃんの承諾も無く、勝手に行った江藤光夫の全遺産の相続手続きが無効であり、雄二ちゃんを含めて改めて相続手続きの話し合い、および法律に規定されている全遺産の相続対象分(江藤光夫の死亡後に発見された六万円も含む)を、相続対象者に2分の1ずつ相続させる手続きを行うように主張しました。それを聞いて、相手側の弁護士が妻の金子さんが行った相続手続きは有効であり、改めて雄二ちゃんを含めて話し合う必要は無いと主張してきた。ここまでは理解できるわね」

私達は小さく頷いた。