大学時代の読書

受験勉強について語る内容ではないので、その部分は省きますが、一浪の末にやっと私立大学医学部に合格しました。

村上春樹さんの『ノルウェイの森』が刊行されたのは、私が大学一年のときでした。

あっと言う間にベストセラーになり、社会現象にもなりました。

「これを読めば、女子との会話を広げられる」という誘い文句に乗せられて読んだのが間違いでした。

そういう動機で本を読んでも、まったく進みませんでした。

こんな誰にでも読める有名な本も読めないのかという想いを、軽く抱きました。

高校からまったく進歩のない自分がいました。

読書に向き合うきっかけになるかと思いきや、ここでも出鼻をくじかれました。

在学中は、基本的に勉強と実習とを繰り返す毎日でしたが、相変わらずフラフラしていた自分には、はっきり言ってたくさんの時間がありました。

にもかかわらず、時代はバブル全盛期で、私は医学部という肩書き―というほどのものではけっしてありませんが―を武器に、中途半端な遊びばかりに興じていました。

友人宅に遊びにいくと、たいていの部屋には医学書に交じって医療系の一般書も置かれていました。

医療人の伝記や医療を扱ったドキュメントや小説などです。

医学部に進むような人種ですから、本を読む友人はチラホラいました。

逢坂剛の『さまよえる脳髄』や、遠藤周作の『海と毒薬』なんかが置かれていたのを覚えています。

それを見たときに、医者になるには少しずつそういう本を読まなければならないのかと思い、見栄も手伝って『大学病院医者ものがたり』(米山公啓・著)や『こちら救命センターシリーズ』(浜辺祐一・著)や『ぼくが医者をやめた理由』(永井明・著)などのお手軽医療エッセイに多少手を出しました。

ですが、基本的にはまだ、「自分には向かない趣味だ」と、この期におよんでも、まだ読書を切り捨てていました。