その欠陥が、あからさまな姿で国民の前に露呈してしまったのが、新型コロナウイルス禍への後手に回る縦割りの官僚組織、国政と地方行政の確執、動かない動けない役所、等々である。すなわち小出し・バラバラ・目詰まり・遅滞・説明不足……などの弊害である。さすが、我慢強い日本国民も、これでは先進国とは言えないと思い始めた。

2019年度の日本の名目国内総生産(GDP)は552兆円で、米国、中国に次いで世界第3位である。一方、東京都のGDPは94兆円、世界16位で北欧の国々に相当する。大阪府は46兆円で世界25位の国に並ぶ。今こそ、自ら考え、自ら実行する小回りの利いた中規模の国々並みの社会体制に日本を分化するときと考えている。

月尾嘉男氏が指摘したように、中国には用意周到で、国家目標があり、それを着実に実行する組織がある。その中国に日本が今、煽られ委縮している感がある。しかし現在でも日本は、先進民主主義国家で米国に次ぐ人口とGDPを保持している先進国であり、ものづくり大国である。幕末・明治の若者は100年単位で国の目標を掲げて、邁進したのである。その血筋を引いた我々にできないはずがない(注10)。

―閑話休題―教授会で最後の挨拶

住友金属工業に勤めて28年、早稲田大学にお世話になって18年が過ぎました。住金では尼崎の研究所に8年、小倉製鉄所の現場に17年、東京本社の企画部に3年在籍しました。この間、研究・開発・現場工場操業・品質保証・客先対応・本社の行政など、エンジニアとしての一通りの業務を経験し、これが実務経験として大学の教育・研究に役に立ちました。ただし転勤7回、引越し11回と家族には迷惑をかけてしまいました。

「大学の常識は社会の非常識」といわれるように当初はかなりとまどいました。大学から見れば「私が大学の非常識人間」と見られていました。

最初の数年間は理事会・教員組合・教授会・主任会・教室(学科)会議で相当議論を吹っかけました。その典型例が「給与が年齢給」であることです。「能力にかかわらず待遇が同じ」という、一般社会ではあり得ないシステムに腹立たしく思いました。しかし、あるとき「研究に失敗しても、総長や学部長に楯突いても、自分の給与に影響ない」ことに気がつき、腹が立つのではなく、腹が据わりました……。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『日本のものづくりはもう勝てないのか!?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。