一方、いきものがかりの吉岡は、生まれは静岡県静岡市で、5歳の頃に神奈川県厚木市に移住した。まだ15歳だった吉岡は、1999年11月に水野良樹と山下穂尊の同級生だった1歳上の兄に電話で呼び出され、2人が小田急小田原線相模大野駅前で行っていたストリートライヴに飛び入り参加し、これをきっかけに「いきものがかり」に加入した。

2002年に、海老名高等学校から昭和音楽大学短期大学部へ進学した。翌年2003年8月25日にアルバム『誠に僭越ながらファーストアルバムを拵えました…』でインディーズ・デビューし、2006年3月15日にシングル『SAKURA』でメジャー・デビューを果たした。音楽のルーツはフォークソングやニューミュージック・歌謡曲などを含めた広義の「邦楽」であることから、作り上げる楽
曲はインディーズ時代から一貫して王道のコード進行を用いたポップサウンドが特徴となっている。

これまた不思議な話だが、2人ともほぼ同じ時期にベストアルバムをリリースしている。吉岡は2010年、越智は2013年だ。

26歳から29歳という、多感な時期に選ばれた珠玉の名曲達は、雄弁に2人の心象風景を物語っている。

まず、Superflyのベストアルバム『Superfly BEST』だが、実に感動的なアルバムに仕上がっている。ベストだから当然かもしれないが、全29曲の中に駄作は1曲もない。全編にわたって、越智の力強い歌声とバックの重厚なサウンドが前向きで肯定的なメッセージを送り続ける。音楽的には、60年代後半から70年代前半の優れたロックを高い次元で融合させていると感じる。

一方、いきものがかりのベストアルバム『いきものがかり~メンバーズBESTセレクション~』は、都会の日常生活の中で観られる、何の変哲もない事柄に細やかで優しい眼差しを送り、その持つ意味を静かに問いかけるような曲が多い。

皆さん、2人が紡ぎ出す音楽の違いに注目してください。夢と希望と挑戦を謳い上げる越智の世界と癒やしと安らぎを求める吉岡の世界は違います。ほぼ同時期に生まれながら、どうしてこんなにも違うのかと略歴を比べて見たら、「もしかして……」という仮説に辿り着きました。出身地の違いです。

吉岡は神奈川ですが、越智は愛媛県です。J-POPの中心地、東京との距離が全く違います。東京に近い神奈川県では、豊富な情報を迅速に入手できます。でも愛媛県では思うように東京の様子が判らず、情報飢餓状態になります。

この情報飢餓状態が、却って想像力を刺激し、創造力を育む土壌になるのです。あまりに東京に近いと、情報洪水に押し流されがちになります。じっくりと自分の生に向き合い、肯定的な価値観を確立することが難しくなるのです。

東京の強力な磁場が放つ文化的引力と適切な間隔を取り、集積のメリットを最大限に生かす一方、そのディメリットを最小限に抑えることが、時代に自覚的なミュージシャンには必要ではないでしょうか。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『未来を拓く洞察力 真に自立した現代人になるために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。