一の巻 龍神守の里

館がみえてくると羅技達は里の入り口に通じる道を、数頭の馬に荷を乗せてやって来る一行を見つけた。

「何者でしょうか? 商人にしては、先頭の馬に乗っている男は隙の無い御仁に見えますが……この里に何の用なのでしょうか?」

怪訝そうな表情を見せる重使主から、羅技は剣を受け取り、腰に挿す木刀と挿し換えた。

「我は父上に知らせに行く。お前達は足元に気を付けて森を下り、父上の館に来い」

 

羅技は言うや否や、下に見える大きい建物に向けて走り出すと、重使主と仲根も素早く後を追った。

「はあ~っ。若様はまるで空を駆ける龍の様だ!」

鹿を下げているトビとシギ、そして槍を持つツグミとカリは羅技の走る速さに再度感心した。一方、羅技達は里に帰るとすぐさま馬に跨がった。

「お前達は他の武人達に知らせよ」

「はい」

羅技は奥殿の花園へ行くと、馬から降りて中庭の花園で侍女達と花摘みをしている二人の姫の傍に歩を進めた。

「幸姫! 紗久弥姫! 急ぎ、奥殿に戻られよ! 里の入り口に何処からか知らぬがそと人が来ているのだ。用心の為に奥殿の中に入りなさい」

羅技によく似た姫は軽くうなずくと、さらりと身を翻して二人の侍女達と奥殿へ帰って行く。傍に付いていた風神丸が、幸姫の傍に寄り添って歩く姿に思わず羅技はくすっと笑った。

「風神丸はほんとに幸姫が好きなんだなあー」

一方の小さき姫はその場から動こうとせず、ふくれっ面で羅技を睨んでいた。

「いーっぱいお花をたおろうって思っていたのにー」

「紗久弥……。そちはここに咲いている花を全部つむつもりか?」

「ふん!」

「明日も良き日和だろう。花摘みは明日にしておくれ。それから我にもそなた自ら花を摘んで我の部屋に飾っておくれ」

「このわたくしが兄上様のお部屋に入っても宜しいのですか? でも……清姉上様に叱られまする」

「姉上様には我が伝えておく。ただし、夜遅くに入ってはならぬ。日の高い頃に来るが良い。男の館であるのだから」

「はい!」

紗久弥姫は満面の笑みで羅技を見つめた。

「紗久弥、奥殿へ入りましょう」

幸姫が手招きをすると、はしゃぎながら奥殿へ帰って行った。羅技は姫達の後ろ姿を見送ると素早く馬に飛び乗って父の館へ向かった。その途中で、羅技の館と奥殿をつなぐ渡り廊下に姉姫である清姫の姿を見つけ、傍に駆け寄り清姫に目で合図を送ると、清姫は足早に奥殿へ戻った。

「雷神丸そちは奥殿へ行け!」

雷神丸は身を翻し、奥殿へ走って行った。