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どのように解決したらよいのか

さて、この【事例3】は「何でも言いなさい」のゲームが行われています。「何でも言いなさい」というゲームは、例えば次のような教師と生徒の関係を例にするとわかりやすいと思われます。

まず、教師が生徒に対して「何でも相談できる、テレビドラマに出てくるような生徒の味方」や「何でも言える、兄や姉のような身近な存在」といったイメージを与えるのです。そうすることによって、教師は生徒からさまざまな話を聞き出すことができます。

すなわち、教師は、それとなく生徒を誘導することによって、同僚教師の悪口からPTAの間での自分の評判などを自由に聞き出すことができるわけです。

悪意のあるケースでは、他の教師を中傷する情報を得て、それとなく学校中に広めたりする場合があります。あるいは、自分がいかに生徒から信頼を得ているかといった好印象を学校中に植え付けることにも使われるのです。 これは会社など、ほかの組織でもそのまま当てはまります。

私は、長い会社生活のなかで、「自分の同僚が自分の悪口を集めてきて、それを上司に流すので困っている」といった話をよく耳にしました。この場合、悪口を集める手段の一つが、この「何でも言いなさい」のゲームなのです。

会社でも、先ほどの教師の例と同じで、同僚や後輩、他部署の女性社員、ときには提携関係にある他社の社員にまで「何でも話せる人物」として自分を印象づけ、それらの人から、いろいろな情報を得る人がいるのです。たちの悪いケースになると、特定の人物を蹴落とすために、それとなく、その人物に関する悪い情報を集めることがあります。

さて、私のケースに目を向けてみましょう。 私の場合は、事業部の会議の責任者からゲームを仕掛けられたことになります。すなわち、その責任者が私を会議にオブザーバーとして呼ぶところから「何でも言いなさい」というゲームが開始されているのです。そして、その裏には、私がもし有用な発言や提案をしたならば、それをそっくりいただこうという悪意が潜んでいるのです。

言い換えると、オブザーバーとして私を呼んだが、私がいくら良い提案をしても、事業部には私を称賛する意図は始めから一切なかったのです。

私は、そんな罠があるとも知らず、「何でも言いなさい」と言われたので、わざわざ自分の提案を紙に書いて、のこのこと会議に出かけていき、披露したというわけです。 そして、事業部は当初の目論見通りに、その提案をそっくり盗んで役員に提出したのです。まさに、私は、事業部が仕掛けた「何でも言いなさい」というゲーム(罠)に、どんぴしゃりとはまってしまったことになります。

このように、この「何でも言いなさい」は、組織のなかで悪意を持って非常によく使われるゲームなのです。 さて、一体どうすれば、この「何でも言いなさい」というゲームから逃れることができるのでしょうか?

このゲームの場合、まずは相手がこのゲームを仕掛けているのかどうかを見抜くことが重要です。私の場合ですと、その事業部がそのようなゲームを行う連中かどうかを判断するところから始めないといけなかったわけです。 そして、そのようなゲームを仕掛けられる可能性があるとなると、そういった連中とは付き合わないことです。

この事例のときは、私も入社して間もないころでしたので、対処の仕様がなかったのですが、その後は、自分の提案はその事業部を一切通さず、直接、担当役員にメールで送る手段をとりました。こういう手段は、そのときの担当役員がそのような提案方法を好むか否かで良否が分かれますが、私の場合は幸いにも、そういう方法を好む役員でした。

もし、そういう方法を好まない役員だったならば、もうその事業部とは付き合わないことが重要でしょう。「君子は危うきに近寄らず」という戦法で対抗するわけです。

「何でも言いなさい」のゲームの対処法

相手が「何でも言いなさい」のゲームを仕掛ける可能性があるならば、近寄らない。そして、相手を介さずに、自分の意見を主張する方法を見つける。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『心理学で職場の人間関係の罠から逃れる方法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。