調停終了

それから月日が経過し、調停の第3回目が開催される日の朝になった。その日調停が終了して、裁判所から確定調書が手渡される。雄二は、朝から少し落ち着かない様子で自宅の周辺を散歩したり、普段なら絶対に飲まないブラックのコーヒーを飲んでから朝食を食べ終えた。そのあとラジオ体操を入念に行っていた。その行動を見ていた智也からこう言われた。

「パパ、朝からそんなに動きたいのなら僕と一緒に学校へ行こうよ」

それを聞いて、雄二は少し落ち着くことができたのでこう返答した。

「一緒に学校へ行ってもいいけど、智也は歩くのがパパより速いからきっと途中でパパが追いつけなくて迷子になってしまうよ。だから、今日も友達と一緒に学校へ行きなさい」

そのあとも2人で楽しいおしゃべりをした後、智也が登校していく後ろ姿を見送った。それからも雄二が、なんとかして落ち着こうと努力しているのを理解した私は、雄二に話しかけずに、急いで外出する準備を終わらせて、一緒に自家用車に乗り裁判所へ向かった。姉と合流して3人で裁判所に入り、待合所で午前9時30分から調停が開始される第1調停室への入室呼び出しを待った。

私達はなぜか分からないけれど、長時間待たされているように感じた。そんな状態でも、脳裏には確定調書をもらう為にやってきた行動やその時の感情が、次々とはっきり浮かんできた。その途中で入室の呼び出しがあった。

3人はゆっくりと入室しイスに座った。そして中を見渡すと、2人の調停委員がいるが、今回は相手側の弁護士がいない。もちろん妻の金子さんの姿もない。ただ両方の机の上に確定調書が置いてあり、ホワイトボードには前回書かれてあった家系図も無く、調停委員の背中側にポツンと置かれたままだった。そんな状況の中、1人の調停委員が話し始めた。

「それでは確定調書をご覧ください」

その言葉を聞いて、私達3人は内容を確認した。すると次のように記載されていた。

 〇江藤光夫の相続分 金六万円を薬師雄二に相続する

 〇今回をもって本案件の調停を終了する

確定調書を何度も確認した雄二は、すぐに調停委員に質問した。

「なぜこんな内容になるのですか? 納得できません。説明して下さい!」

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『娘からの相続および愛人と息子の相続の結末』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。