他の会員が、酔った調子で絡んでくる。

「もっと、飲もうよ。今日は無礼講だから、気楽にいきましょう」

「私は、飲めないので、ウーロン茶です」

それでも、勧める。私が、困っていると彼女が、

「私が、代わりに飲みましょう」

きっぷのいい彼女で、コップ一杯に注がれたビールを泡もろとも一気に飲み干した。私の隣の席に座ってから、私は、ビールを飲むように勧めた覚えがない。のどが渇いていてビールを注いでくれるのを待っていたのだと思った。

一気に話は下世話になって、三人で盛り上がった。彼女は、子持ちで主人の暴力に耐えきれず離婚し現在、再婚相手募集中。三十代で魅力的である。強引に割り込んできた先輩が

「家庭内暴力については、多くのハラスメントの中でも一番許されることではない」

と自説を唱え始めたのは良いが、酔っているため取り留めもなく同じ話を壊れたレコードのように繰り返した。宴も最後のビンゴゲームになり、先輩は自席に戻った。

私は、新人の為、皆さんにビールを注ぎ、これからのことも含めて挨拶をするために今回出席したのであるが、最後までその計画は果たされず、隣にくっついた彼女と話すことになった。ビンゴゲームも彼女が勝手に私のカードに対応してくれて、その間、私は目の前にある美味しい食事を口にすることが出来た。お腹が膨れる頃、ゲームも終わった。先輩コンパニオンが、「帰るわよ」と彼女の手を引いた。彼女は、その手を振り払い、名刺に携帯番号を書いて、

「お母さんの件で頼みたいから、必ず電話して頂戴ね。絶対ね。待っているから」

さっと、私に手渡した。大分酔っぱらっているようだ。

何年もの間、女性から「待っているから」と言われたことはない。何とも言えない気持ちで……。もてる男は毎回、こんな言葉を女性から掛けられるのだろう。こんな人生も良いなと思う反面、甘い蜜には罠がある。もてない男は、こんな時尻込みをしてしまう。そんなことを考えていると、先程の先輩から、「年金手続きの依頼を受けたのか。年金手続きは慎重にやった方が良いよ。分からないことがあったら聞いて」

私の顔に、唾気を飛ばし口早に忠告してくれた。

その一言で、現実に引き戻された。手続依頼なのだ。可笑しさで心の中で笑ってしまった。ウーロン茶で酔っ払ったのだ。

そんなこともあって、事務所がどこにあるか分かるように、看板の必要性を感じ、専門店に電話したが、コストが高い。一番安かった店に決め担当者と打ち合わせを行い、前面と横側に事務所名と電話番号を記載した看板を掲げることを決めた。

事務所の前から、その看板を見上げて、

「社労士の受験を決心し、厳しい病状を乗り越え、頑張ってきた努力が報われた」

思わず、目頭が熱くなり判断が間違っていなかったことを喜んだ。

この込み上げる思いは、上司、友人、ドクター、何よりも私を近くで見守ってくれた家族の支えがあってのことと感謝している。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『明日に向かって』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。