箱根の宿 初日夜

風呂から部屋に戻ると、晩飯が用意されていた。山菜と虹鱒フライと鮪の刺身がメインのありふれた山の旅館料理だったが、グルメとは縁遠い高齢者の私たちには特に不満はなかった。

日本酒の熱燗や冷、ワインの赤白、焼酎やウイスキーを、好みで選んで、時間をかけて飲み食いした。食後に久しぶりに麻雀をしようと衆議一決したが、あいにく宿に麻雀セットの用意がなかった。

時代が移り、宿屋で徹夜麻雀をする人が激減したようだ。箱根まで来て、夜寝転んで四人でテレビを見ていてもつまらない。私たちは宿の売店で買ってきた柿の種、さきいか、チーズなどをつまみに、まただらだらと酒を飲むことにした。

「なぁ、松岡。さっき、俳句の神様には何度も会っていると言ったよな。その話をしろよ。神様にどんなことを教わっているのか。なあみんなも、聞きたいだろう」

頬と顎に白い髭を伸ばしている中澤が言った。宿に着いてから、俳句について語り続けた私は、もういい加減疲れていたが、この三人は許してくれない。

「俳句のリアルだからな。へへへ」

いくら飲んでも酔ったように見えない立村が、よくわからないことを言って笑った。