たとえば、平成二五年度に人材確保のための補助金が交付されました。

国会議員のかたがた、保育団体の役員、そして行政の人たちも画期的な補助金を実現したと評価しておられるようですが、現場の保育園も「日頃がんばっている職員の待遇を少しでも改善できるのでありがたい」と思いました。

しかし、この補助金をもらうためには、多くの資料をそろえて文書を行政に提出しなければなりません。

税金を使わせてもらうのですから、裏づけとなる資料、文書が必要なことはわかるのですが、以前に比べると行政側の職員の能力が高くなっていることもあり、現場の実態から離れた机の上で考えられた細かいところにまで及んだ資料、文書の提出が義務づけられています。

現場では、園長がそれらの事務の主担当者となるのですが、園長一人ではとても対応できないので、主任保育士や他の職員も動員して事務に当たらなければならないのが現実です。

会計事務(会計ソフト)のインストラクターとして多くの園に出入りしている人から、ノイローゼ状態になっている園長先生が多いという話も聞きました。

一日中パソコンの前に座っていて、保護者や若い職員との接触を避けている園長が多い保育園の現実もあります。

制度の改変や補助金交付にともなう、行政からのいろいろな文書の提出や資料の作成などの事務だけでなく、保育団体からのアンケートや新たに企画された情報公開や地域貢献、社会貢献事業に関連した研修やアンケートなども、数多く現場の法人や保育園に押し寄せてきます。

こうした、パソコンの前にほとんど一日座っていなければならない状況から、園長先生が近隣の人と言葉を交わしたり、雑談をしたりする余裕はないのが現実です。

近隣の人と疎遠になってしまったため、音やクルマなどの苦情が園に寄せられることが多くなったのは当然だと思います。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『明るい保育は未来を明るくする 「積極的保育」のススメ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。