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第二章 ター坊物語

三歳児の心の儀式

三歳になったばかりの孫のター坊が、一か月前から就床前に妙なことをやり始めた。

布団の上のタオルケットを二つ折りにする際、その両端が揃わないと気になるらしく、ぎこちない手つきで端合わせを黙々とやり始めたのである。

この奇妙な行動が一時間以上も続くので、母親が割って入り、タオルケットをたたみ直して「ハイ、これでおしまい、もう大丈夫! ネンネしましょう」と言っても納得せず、無理に止めさせようとすると泣きだす始末である。

タオルケットの端合わせにこだわる仕草は強迫行動のようにも見えた。強迫行動とは不潔恐怖に由来し、何度も手洗いを繰り返す手洗い強迫、過失への不安から鍵やガス栓を何度も閉め直す確認強迫などがある。漠とした不安を整理して気持ちをスッキリさせようと同じ行動を繰り返す神経症的行動である。

孫の、この不思議な行動の背景について、母親にいろいろ聞いてみた。これまで母子二人で登園していたが同年の姪っ子が登園に加わり、園でも新入りの姪っ子の方に目がいき、ター坊は何だか淋しげだったという。

その頃から母親に甘える仕草を見せ、「ママ、ター坊好き?」「アーちゃん(姪っ子)とター坊どっち好き?」「パパとター坊どっち好き?」と聞くようになった。母親は「どっちも大好きよ」と答えていた。

ター坊はパパも大好きだ。休日はいっぱい遊んでくれるのでいつもパパの帰りを待ちわびていた。そのター坊の奇妙な行動が、ある日を境にピタリと止んだ。その日、ター坊が再び母親に「パパとター坊どっち好き?」と聞いてきた。母親が「これ内緒よ、絶対内緒よ。本当はね、パパよりター坊が好き……。パパには内緒よ」と大げさに伝え、ギューと抱きしめた。すると、その夜からタオルケットの端合わせをやらなくなったのである。

あのタオルケットの端合わせは何だったろうか……。もしや、あれは、父親に対する愛着と嫉妬が絡みあう葛藤ではなかったか。いわゆるエディプスコンプレックスだ。エディプスコンプレックスとはフロイトが精神分析論で唱えた概念で、幼少期の男の子が母親に性愛感情を抱き、父親に嫉妬する無意識の葛藤感情のことだ。ギリシャ悲劇に登場するエディプス王にちなんで名付けられた。

大好きなパパが恋仇でもあるという相反する感情に戸惑い、それを整理解消しようとタオルケットの端合わせを行ったのではないか……。だとすれば、あれは、三歳児が行った心の儀式ではなかったか。これまで、一人っ子のター坊は母親を独占し、安住していた。そこへ姪っ子が登場して嫉妬感情に火がつき、それがパパへの嫉妬となって飛び火した……と考えると理解できる。

母親から「パパよりも好きよ」という内緒の確約を得てター坊は、今、元気に飛び回っている。