第1章 心構え

ゴールデンタイムを活かす

長時間労働で過労死も出るくらい激務と言われる現場監督の業務をスマートに執行したいなら、自らのゴールデンタイムを活かすことは必須条件だ。

ゴールデンタイムは、スーパーマリオで言えばスターをとった無敵状態。周りに一切邪魔されず、どんなミッションが来ても難無くこなせてしまう。全てが効率よく、集中力も最高潮に達し、最高のパフォーマンスを発揮できる時間帯だ。

だから、どこにスターが発生するかわかっていれば、当然みんな取るはずだ。だけど、現実はなかなか取れない。人によって発生する時間も、条件も違うからだ。でも、必ず誰にでもある。

僕の尊敬するスマートゼネコンマンのひとり、O氏の場合は13時~14時がゴールデンタイムだった。一般的に建設現場では、各工事会社の職人の代表が集まって、翌日の段取りを調整する作業間調整会議が毎日行われる。僕が所属していたゼネコンの場合、多くの現場では、この会議はお昼休み前の11時半頃から行われていて、入社した時から僕はそう教えられていたので特に疑問は感じていなかった。

だが、O氏の現場ではお昼休みが終わる13時から作業間調整会議が始まるのだ。それまで11時半からの会議が当たり前だった僕にとって、それはとても衝撃だった。そもそも、11時半からやると会社で定められているものと思っていたのに、O氏の現場では当たり前のように13時からだったので、会社の決め事って自分たちでいいと思う方向に変えていいこともあるんだ、というような感覚だった。

実際には会社として「11時半」と決められておらず、「お昼」という決まりだったように記憶している。思い込みのせいで本質を見落としていた自分を恥じたが、この冷静さこそO氏がスマートゼネコンマンたる所以だろう。決め事や常識にとらわれずに、今本当にベストなことは何なのかを追求し、躊躇なく実行していく。

O氏の仕事に対する姿勢から僕は本当にたくさん学ばせて頂いた。特にこの作業間調整会議については、やってみると、僕もそれ以来ずっと13時派になってしまったくらい、とにかく効率がよかった。それまでの会議は、お昼休憩前なので疲れていたり、お腹が減っていたりと、集中できないことがあった。常に体を動かしている職人にとっては尚更だろう。

だから、話を聞いているようでも昼寝をすると忘れてしまったり、違う解釈をしてやり直しになったりすることがあった。また、会議が長引いたりする時でも、午後の作業開始時間は変わらないから、十分な休息時間が確保できないこともあった。

こういった非効率的なことが、13時からの会議ではほとんど発生しなくなったのだ。とりわけO氏にとっては、一番集中力があって、間違いも少ないゴールデンタイム中に明日の段取りを終わらせてしまう訳だから、翌日になってムダなやり直しが発生しない。更には職人たちも次の段取りがわかった上で作業を進めていくので、O氏が現場に呼ばれることも少なくなる。

現場監督の業務能力を見分ける感覚的な基準のひとつとして、現場に張り付いているかどうか、という視点がある。簡単に言えば、現場の段取りがいい監督の場合は、スムーズに職人の作業が進むから、監督は必要最低限のポイントを確認する程度で済む。

逆に段取りが悪い監督の場合、職人もどう進めたらよいか判断できない場面が多くなり、監督が常にずっと現場に張り付いて指示をしないといけなかったりする。そうなると、書類作成などのデスクワークがどうしても現場作業終了後の時間になり、残業時間が膨れ上がっていく。

ということなのだが、O氏はゴールデンタイムを利用して効率よく段取りすることで、日中に事務所内でデスクワークをこなせる時間を確保できていたから、中間管理職にもかかわらずそれほど残業をせずに帰っていた。正にスマートゼネコンマンの働き方として、僕はとてもO氏から学ぶことが多かった。

ゼネコンマンから頭を切り離して、世界中の成功者に目を向けてみても、多くの成功者がこの考え方を実践していることに気づくはずだ。

誰もが聞いたことのあるような一流の経営者ともなれば、当然ゼネコンマンの何倍も忙しいはずだ。にもかかわらず、しっかり6~8時間の睡眠時間をとっている人が多い。というより、ちゃんと睡眠時間を確保しているからこそ、忙しいスケジュールを高いパフォーマンスでこなし続けていけるのだろう。

そして、深い思考が必要な仕事を頭の冴えている午前中に済ませていることが多い。これこそゴールデンタイムだ。もちろん、全ての成功者がこうではなくて、短い睡眠時間でも十分なパフォーマンスを発揮できるショートスリーパーもいる。ただ共通しているのは、自分にとって高いパフォーマンスを発揮できるスケジュール配分を理解し、継続しているところだ。

一般的には、よりクリエイティブな発想を必要とする業務に携わる人は、長い睡眠時間を必要とするそうで、ショートスリーパーで活躍できる人は相当気合の入った努力の鬼、みたいな人なのだろう。

僕も、今は7時間以上の睡眠をとるよう心掛けているけど、現場に配属された最初の1年間はショートスリーパーになることを心に決め、帰りは終電、翌日には始発で現場に出る毎日だった。この頃は2~3時間程度の睡眠時間だった。今思うとこの時の経験にも意味はあるけど、やはり長くは続かなかった。睡眠時間が短いことにより集中力を欠き、単純なミスをすることが多かったのだ。

どちらも試してみた結果、また、僕が理想とするスマートゼネコンマンを見つければ見つけるほど、その人たちも長時間睡眠を確保している人が多かったので、僕自身はこのスケジュール配分でやっていこうと決めたのだ。

どちらにしても、自分で効率のよいスケジュールを決めて、それを継続し続けた結果、一流の成果を挙げているのだとすれば、本当は長時間睡眠が体に合っているはずなのに仕事のリズムをつかめず、まるで社畜のように残業を繰り返す人たちが、ちゃんとしたパフォーマンスを継続できないのは当たり前だと思う。

逆に言えば、自らのスケジュール配分とゴールデンタイムを把握し、そこで手間のかかる業務さえ処理してしまえば、1日の業務の8割は終わったようなものだから、心身ともに回復する余裕ができる。あなたがショートスリーパーであればその時間を使って新たな挑戦をすることができるだろう。

「20対80の法則」とか、「パレートの法則」とか言われる原理原則がある。例えば、大事なことの8割は、1日の時間の2割で行われ、残り8割の時間はそれほど重要でない2割に使われる。そういったような法則だ。

ここでいうゴールデンタイムも同じような考え方なのだ。ちなみに、ゴールデンタイムは、これもマリオのスターと同じで、そんなに長くは続かない。僕もせいぜい1~2時間がいいところだ。面白いことに、1日8時間業務とすれば、1~2時間というのはちょうど2割くらいの時間になる。

ここで8割の業務が終わってしまうことが世の中の原理原則だとするならば、原則に逆らう働き方のほうこそ効率が悪いと、歴史が証明しているのではないだろうか。ゴールデンタイムを活かせば、残業する必要なんて本来はないはずなのだ。

もし万が一、どうしてもゴールデンタイムを見つけられないなら、自分で決めてしまえばいい。僕がそうだったように。

僕がゴールデンタイムという考え方に出会ったのは大学時代に読んだ本か雑誌だったように記憶しているが、一体いつが自分にとってのゴールデンタイムなのか、しばらくつかめなかった。

だけど、社会人になって現場監督として初めて配属された現場のことだ。翌日が休みという上司に誘われて、朝までお酒を飲んで、そのまま仕事に行ったような日だったと思う。通常は7時くらいから出勤が始まるその現場で、その日の僕は5時半に事務所入りしたのだ。

そこで発見したのは、5時半から7時までは、誰にも会わないということ。しかも、電話もかかってこないから、かなり集中できる時間だということを発見したのだ。

さっきまでお酒を飲んでいたにもかかわらず、思ったよりも仕事がはかどる。これは、普通に家で寝てこの時間に来ればもっと効率よく仕事できるのではないだろうか。そんな思いから、この早朝時間を自分のゴールデンタイムにするんだと決めて、1年かけて習慣化し、自分のゴールデンタイムに仕込んだのだ。

ちなみに昔から早起きが取り得の僕ではあるが、いくら早いといっても学生時代は6時くらいで、せいぜい5時半がいいところだ。だけど、この時に習慣化した起床時間は3時半。シャワーを浴びて、着替えてリラックスしてから、4時51分船橋駅発の始発電車(当時)に乗る。東京で一番の乗車率を誇る東京メトロの東西線ですらガラガラで、僕は毎日座って通勤することができた。

以来、どの現場でも基本的に5時半~6時までには出社して、ゴールデンタイムをフル活用していた(たまに眠たくて、5時半に出社したのにそのまま眠ってしまうこともあったのだけど、このことはとても優秀でキューティーな後輩Mと僕の間の秘密だ)。今はさすがに3時半に起きることはきつくなってきたが、それでも4時半には起きるのが僕のルーティーンになっている。

ちなみにこれを習慣化した後に知ったことだけど、朝起きてから2~3時間くらいが、脳科学的なゴールデンタイムらしい。関西人らしい単純な性格の僕は、それを知ってから、ますますゴールデンタイム中の能力に磨きがかかった。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『スマートゼネコンマン~残業なしで成果を出す次世代現場監督~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。