(6) ヘリウムと陽炎(かげろう)(ねっ)し気球浮く

・作句の意図 所沢市にある航空記念公園内にある航空発祥記念館を見学。興味深い展示が多かったが、特に小型気球の浮上実験が面白かった。気球は熱したヘリウムガスが注入されて宙に浮く。

歳時記には、陽炎は神秘的で儚はかない物を暗示するとある。気球は陽炎の中に浮かぶと形がぼやけてしまう。だから陽炎の中の気球は避けよう。それよりも、陽炎をいっそのこと気球に詰めるとしよう。ヘリウムガス100パーセントより、少し水分を含んだ陽炎入りの、私の乗った気球はゆっくりと上昇するだろう。気球に陽炎を入れるという発想がユニークな句。

・結果 陽炎は気球に入れない、無理な句と一顧だにされなかった。俳句は詩だから、科学的に考えなくてもいいのではないかと主張するも、誰の賛同も得られなかった。その時、句会中の私がひとり陽炎の中に取り残され、自分の影がゆらゆら揺れているような気がした。

俳句的にはマイナスに働くことが多い、私の特異な発想は、私の体に『物狂い』の血が流れているからだ。梁塵秘抄(りょうじんひしょう)今様(いまよう)世阿弥(ぜあみ)の能やシェイクスピア劇の登場人物にも『物狂い』が見られる。負け惜しみではなく、私は『物狂い』を大切にしたい。いつの日にか、物狂い俳句を世間に出したいと思っている。それにしても、詩情として許される限界(そういうものがあるのならば)は、どこにあるのだろうか。

(7) 九月末隠居となりし年暮るる

・作句の意図 九月末に退職し年金生活に入ったその年ももう暮れるのだ。人生の節目の年の、その年の瀬の感慨を詠んだ。

・結果 『九月』と『年の暮』の季重なり。しかも秋の季語と冬の季語の季違い。投句前のチェックが不足している。

(8)  温暖化探梅(たんばい)(ごころ)そがれたり

・作句の意図 温暖化が異常気象や風水害を引き起こし、大きな問題になっている。そうした社会問題を俳句でとりあげる。先日、探梅に行ったが、春を告げる梅が温暖化の影響で、もう開ききって花びらを落としていた。人間の業が生み出した温暖化が、俳句の大切な対象である自然を傷つけている。だが、そういう私も、暑いにつけ寒いにつけ、エアコンに頼っている。

・結果 この句を散文で書けば、「温暖化が進んだので(原因)、探梅という行為に支障を来たすことになった(結果)」である。だからこの句はまさに原因と結果の句である。俳句には原因は要らない。原因を述べると理屈になってしまう。理屈は俳句には不要で、俳句は結果だけを詠むものと注意された。