河川敷

背の高い芦の合間から見える
抜けるような青空
いつからここに横たわっているのか
足の自由がきかなくなって久しいというのに
自力でやってきたはずもない
そういえばゆうべ夢見が悪かった
この世の終わりのような地震に
南無阿弥陀仏と
毛布の中で縮こまっていた
さては大家の息子が私を捨てたのか
そう思い当たって
おいおい泣いた
遠くないうちに
人生の滝つぼに落ちると
覚悟はしていたが
河川敷とは

泣きくたびれて
気が変わって連れ戻しに来はしないか
聞き耳を立てるが
近づいてくる足音などない
この上は夢枕に立って
恨み言の一つも言うべきか
しかし
あいにく顔すら思い出せない
亡くなった大家とは長年の付き合いだったが
息子とは会釈を交わしたことしかなく
そんな相手を心底憎むのは難しい

時折
電車が鉄橋を渡っていく
散歩する犬の吠え声
自転車のベル
小学校のチャイムが
不法投棄された私の耳に届く

頭上でカラスが旋回している
彼らは行儀よく
こと切れるまで待っていてくれるだろうか
こちらの都合も考えず
食事を始めてもらっては
非常に困る
警察や自治体は
この鳥葬を黙認しているのではなかろうか
広い芦むらの中に
同じような老人が転がっていないとも限るまい
向こうの芦が
妙な具合に揺れるのは
なにかの合図かもしれない
なんとか連絡を取り合って
この芦を食べてみるということや
顔のすぐ横を這っていく
脚の多い虫を食べてみるということについて
意見を交わしてみたいのだが
少し眠くなってきた

小春日和の青い空
風の向きによって
川のせせらぎが遠くなる
近くなる
芦のそよぎ

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『苦楽園詩集「福笑い」』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。