第2章 解釈

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「例えばある県と、ある県の県境。ラッキーにも川が流れてればそこを境目にできるわよね。簡単よね。でも川って当然、幅が何メートルかあるじゃない。何センチ幅の川があるかもしれないけど。その幅のどこで線を引くのかっていったら、結局誰かが『ここ!』みたいに決めちゃうわけでしょ」

と言って、右手を広げ人差し指をこめかみに当て縦に振り下ろした。ここが基準だと言っているかのように。

「ほら、曖昧でしょ。山で分断されている部落を市として分けるってことも昔あったわけじゃない。山のどこを市と市の境目にするのかみたいに。それに、世界地図を思い出してみて。ヨーロッパ。国境はギザギザじゃない。『これが国境だ!』みたいにピッて直線じゃないでしょ」

と言って、由美が一歩近づいてきた。

「薬の作り方ははっきりしているわ。考えた通りの分子構造を純粋な原材料から作っていく工業製品みたいなものだからね。でも食品でしょ。そもそもの原材料が食品なんだから。小麦粉だって砂糖だって。もちろん工業的に生産しているから、ある一定の幅を持って基準らしいものがあるけど、薬みたいに厳密かっていうとNoよね。そんな曖昧な物同士を寄せ集めたものが加工食品なんだから。曖昧なものよね。そう思わない?」

そうかもしれない。と思えてくる。言っている内容にではない。口調に納得させられるのだ。そうかもしれないと思ってしまう。宗教の教祖もこうなんだろうと思った。

「考えてみて。トクホも結構グレーよね。消費者庁が認めた健康食品だから効果は保証されている、と一般の人達は思っているけど、実際は違うでしょ。例えば、食物繊維を入れたトクホを作ろうとした場合、その商品を食べてもらって効果が認められた論文があればオッケイよね。それで新発売トクホ炭酸ってことで、若い男女がダンスフロアでイケイケで踊るCM流す会社もあるけど、嘘でしょ、って思わない」

「私ね、ネットで調べて効果の根拠になった論文を読んでみたのよ。実験に参加した人達の年齢は50歳代。ほぼ高脂血症くらいの中性脂肪値の高い人達が飲んだ結果なのよ。ダンスフロアで踊るのが中年のおじさん達ならまあオッケイかなと思うけど。若い人達があのトクホ飲んだって何の効果もないわよね。1本につき20〜30円多く支払う意味ナシでしょ。どう正解?」

と由美は人差し指を立てた。

「もちろん、我が社のトクホはきちんとしているけどね。それでも薬に比べれば健康食品もハラール食品もグレーよね。イメージ重視。グラビアアイドルみたいなものよ。だからハラールもノー・プロブレムよ」

由美は腰に手をあて深く頷いた。自分の意見に大いに納得したのだ。

「……ですけど、1点、すごく心配なところがあるんです。白砂糖の製法なんですが……」と言ったところで、由美が人差し指を口の前に持ってきた。

「会社は営利団体なのよ。わかってる? 私もケントくんもその利益から給与をもらっているのよ。新しいことにチャレンジするには危険がつきものよ。ノー・プロブレムよ。私達のアイデアを最後は本場マレーシアの彼氏がチェックしてくれるんだから」 

由美の顔が近づいてきた。耳元で「許してあげる。だから今夜、スリーファイブで」と言って部屋を出ていった。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『きみのハラール、ぼくのハラール』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。