第2章 解釈

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健康食品開発部の奥には小さな試作室があった。簡易なものだが一通りの調理器具や薬品類が揃っている。白衣を着たケントがハラール新商品の試作をしていた。

ハラール商品はこう作ればよいと考えた。すでに販売している商品を持ってくる。使われている原材料を調べ、ハラールかを確認する。アルコールを含んでいたり、豚の加工品を含んでいる可能性があれば、その原材料を他のものに置き換える。ただそれだけのことだ。

インパクトのある商品にするには特定保健用食品いわゆるトクホがいい。自社商品で売れ筋の炭酸系トクホ「スパークウエル」で試すことにした。

「ケントくん。本格的に商品の試作していきましょ。なかなかいいものができそうよね」

先日のことは忘れてしまったかのように振る舞う由美を見ると嬉しくなった。こういう2人の関係性を共依存というのだろうか。

由美に厳しくされても耐えている。たまに優しくされると、その優しさが2倍にも増して感じられるからだ。もっと厳しくされたくなる。

さらに増加した優しさを受け取りたくて。人の欲にはキリがないのだ。それを知ってか知らずか、由美の要求レベルは上がっていく。

「ケントくんの情熱に負けて、やむなく始めたこのプロジェクト。しっかり責任を持って進めてね」

由美は強引だ。でも不思議と納得させられてしまう。そうなのかもしれないと思わされてしまう。姿勢、口調、視線。由美は無意識なのだろうが、説得力があった。

「……ですけどハラール基準って、YesかNoかはっきりしないグレーなものに思うんですが……」

勉強して知れば知るほど、その曖昧さが増していった。これまでの勉強の仕方は間違っていたのではないか。時間をかけて勉強するほどに記憶が定着し、理解が深まると思っていた。

聞いた言葉を暗記し忘れないようにそうっと頭を持ち運び、試験の時にその知識を流しだすだけ。そんなやりかたじゃだめだ、勉強の仕方を変えなければいけないと思った。

「ケントくんの言っていることはよく分かるわ。ハラールの基準が曖昧だってこと。でも逆に曖昧じゃない基準ってあるのかな。基準、と言われると定規を使って引いた一本の線を想像しちゃうけど。その線を超えたことが基準をクリアしたことと思うけど。そんな簡単じゃないわよね。人間同士が話しあって、あぁでもないこうでもないと、議論しながら決めていくのが基準でしょ」

と言って、由美は右手をまっすぐに伸ばし、手の甲を上にして左右に振った。そこに基準があるかのように。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『きみのハラール、ぼくのハラール』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。