「薬師さん側の主張の内容は分かりました。次に江藤さん側の主張をお願いします」

調停委員の話を聞いて相手側の弁護士は、また眼鏡のふちを1回触ってから主張し始めた。

「江藤金子さんに前回の調停終了後、内容について報告させてもらった時に言われた事は、夫から全遺産を妻の私に相続してもらった手続きは法律に照らし合わせても有効であり、薬師さんと遺産分割協議の話し合いに応じる意思が無いとの事でした。やり直す決定権が金子さんにあるのなら、薬師さん側と話し合う事はありません」

相手側の弁護士の話が終了すると同時に、姉が主張し始めた。

「あなたも弁護士なら、今回の案件が法律の基本的な考え方から逸脱していることは理解できるはずです。しかも、決定権が一方的な利益が発生している江藤金子さんにだけ認められているのも、おかしいとは考えないのですか?」

「私は弁護士として江藤金子さんを全力で弁護します。そして、決定権の提案は調停委員からされたことなので、私はその提案について依頼人の意思を主張するのが仕事です!」

これ以上、相手側の弁護士と話し合いをしても進展がないと理解した姉は、調停委員に問い始めた。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『娘からの相続および愛人と息子の相続の結末』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。