アナログとデジタルものづくり

AI時代に必須なのは大企業の変革"社内特区"である。

大企業の特徴は"慎重審議、各部署への稟議書配布、会議の前の綿密な根回し、膨大な技術蓄積、事業の慎重な事前審査、過剰な品質重視、完全自前主義、大量生産設備の保有、大きな販売流通網"などが挙げられる。

一方、世界の潮流は"スピードと即断即決、トライ&エラー、先端技術の適用、走りながらの対応、オープン戦略、製造アウトソース、ネット活用"などが主流になりつつある。

この流れに乗れない大企業を、優秀な若者が見限りスピンアウトしつつある。大変もったいない話である。

そこで、すぐに舵を切れない捕鯨船の大企業は、自在に動けるキャッチャーボートである"社内特区"を設け、ベンチャー企業に発展するインキュベータを設ける方法もある。

TOYOTAは、東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に「実験都市」を2021年2月に着工し、将来的には面積が約71万平方メートルの街になるという。自動運転やロボット、スマートホームなど先端技術が満載の未来の都市構想である。

TOYOTAが未来都市を建設するとなると奇異に聞こえる。しかし、そもそも「トヨタグループ」で見れば、TOYOTAを中心に、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を核とした金融・住宅・教育など様々な業種・業界の企業集合体である。

もはや、自動車だけではじり貧である。TOYOTAは自動車製造会社から、「未来プロジェクト会社」と言ってもよいほどの変身に舵を切っている。

一言で言えば、"ものづくり"と"ことづくり"の融合である。素材産業も機械・電気・電子産業も、これからどう変身するかが問われ、かつ若いエンジニアにとっては新たなチャンス到来とも言えるだろう。

月尾嘉男氏が指摘しているように、今の中国は他国にとっては迷惑千万であるが、用意周到で、岩盤のような国家目標があり、それを着実に実行する優秀な官僚と組織がある。大国に隣接する小国が生きていく唯一の方策が「クオリティー国家」であると大前研一が提言している。

例えば、米国とカナダの関係である。人口比で8.8倍、GDP比で11.9倍もある米国に、隣国カナダが対等に付き合っている。それは、カナダに質の高い文化・教育をベースとしたものづくりが息づいているからである。

同じように人口比で日本の12.5倍、GDP比で2.3倍の中国ではあるが、クオリティー国家としての日本は中国と対等、あるいは対等以上に付き合うことができるはずだ。

敵対していては相互に不利益しか生まれない。中国は数千年前には「ものづくり大国」であったことを忘れてはならない。

さらに研究開発のハードは日本が優れているとはいうものの、弱点は情報・ソフト関連である。欧米との協力はもちろんであるが、若い研究者の多いインドとの協力推進が不可欠である。