一乗寺下り松 ―武蔵よ もうちょっと生きてみるか

3、阿修羅

鉛のようにからだが重い

だが気負いはもうない

鞴のように息が荒い

だが規則正しい

オレにはもう

区別がない

阿修羅で

不動で

鬼で

地が

打ち 

樹が

呼吸し

岩石が考え

内と外の境界が消え

次々に自他が入れ代って

ぐぐぐ ぬぬぬぬ どどどどど

疲労の極にいるが魂魄は澄みその剣は凄まじい

叫びが叫びをのむ ぐぐぐ ぬぬぬぬ どどどどど

斬る叫ぶ斬られる叫ぶが共鳴する 南無地獄大菩薩南無

地獄大菩薩南無地獄大菩薩南無地獄大菩薩南無地獄大菩薩

敵も味方も我も彼も善も悪も天も地も修羅も畜生も餓鬼も地獄も一つ

踏み込む斬る躱すまた斬る踏み込む斬る躱す斬る死も生も一つの営み

そして身体のまんなかにいのちの通路がひらかれ身体が天地のとんねるになり

ついに自由がくるのかついに無限がくるのか それがオレなのか天地につらなる

オレの生の証しなのか死のとなりの生のきらめきなのか

このオレがオレになるのか

かなしみは力

いかりは智慧

いのちは天に導かるべし―

武蔵は

次をみる

一人をみつめる

向かい合う

自らを

解き放つ

今に突き放す

今のiを生きる

生死のmを生きる

一生を一瞬に凝縮する

七十二の生をともに生きる

次の

「点」に向う

生の獲物に向う

武蔵が武蔵になるために

武蔵が次の武蔵になるために

疲れている

意識が途切れそうになる

横になろうか

眠ろうか

しょうがない

起きていようか

もう少し斬ろうか

もう少し息しようか

もう少し生きていようか