「先生、その点滴だけで主人の体はいつまでもつんですか? 最近、顔がむくんできたようだし、口もかなり渇いた感じになってきているので、早く何か飲ませてあげたいなあと思っているんです。何か飲ませるのはよくないのかしら」

益田医師は、ちょっと困った顔をした。朝の回診時で、他の患者も診なくてはならず、ゆっくりと話す時間がないのに、時間をかけて説明する必要があったからだ。

「奥さん、今度娘さんを連れてきていただけないでしょうか。娘さん同席の上で、敬一さんのことについてご説明いたします。いかがでしょうか」

「今話してもらってもいいですよ。そんなに大変な話なんですか」

「ちょっと今は時間がないもんですから。ごめんなさい。あらためて日を変えてお話ししようと思います。敬一さんの栄養の維持についての話もありますし、今後の病状についてや、取るべき方法などについてもご説明いたします。今度の火曜日か木曜日、もしくは来週であれば、土曜日の夕方6時くらいまでは病院に待機しておりますので、希望の日時を病棟の看護師に伝えておいていただけないでしょうか」

「私の方こそごめんなさい。先生、忙しいのにお引き止めして」

「そんなことないですよ。ただ、ちょっとまだ他の患者さんも診て回る必要があって、ゆっくりお話ができず、私の方こそごめんなさい。説明の日程、決めておいてくださいね。明日の回診の際に言ってくださってもいいですからね」

益田医師はそう言うと、病室を急ぎ足で出ていった。

ワンポイント解説

敬一さんの点滴による栄養とは高カロリー輸液のこと。鎖骨下の、あるいは内頸静脈などの中心静脈といわれるある程度の太さのある静脈内に皮膚の表面からカテーテルというシリコン製の点滴の管を留置しておき、その管から患者に必要なブドウ糖やアミノ酸、そして脂質などを持続的に注入する栄養確保の方法である。さらにはビタミン、亜鉛などの微量元素も追加する。末梢の静脈では高カロリーの輸液を行うとたちまち静脈炎が起きて注入不可能に陥るが、中心静脈からは比較的長時間注入が可能である。

※本記事で紹介している人物はすべて仮名となっております。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『改訂版「死に方」教本』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。