これらのバンドに共通しているのは、人間性、特に若い男女の愛情の機微を、きめ細かく描くことと、その中で自分はどういう立場を取ってきたかを、赤裸々にすることであった。

例えば、松任谷由実のブランド志向と、自分が愛され続けていないと気が済まないという我儘さは半端なものではなかったし、桑田佳祐の、原由子の一挙手一投足への観察と優しい眼差しは多くの人々の心に深いインパクトを与えた。

更に、桜井和寿は、2002年の小脳梗塞という試練を乗り越えて、不死鳥のように蘇り、数々のトレンディドラマの挿入歌を手がけるうちに、若者中心にミスチル旋風が広まっていった。因みに私のカラオケの十八番は、ミスチルの『Sign』である。

人間が一番人生の充実を感じるのは、愛に満たされた日々を送っているときであろう。しかし、そこへの道のりは平坦ではない、いや、むしろ茨の道の方が圧倒的に多いだろう。その途中で、人は様々な苦い経験をする。

相手に対する思いやりのはずが、結果的に相手を傷つけてしまう。言葉にしない限り気持ちは伝わらないのに、その勇気が持てない。逆に、自分の感受性が鈍すぎて、寄せられている好意に気付かない。苦い思い出には、枚挙に暇がない。だから、人々はユーミン、桑田、吉田、桜井が描き出す世界に深く共鳴し、共感を覚えるのだ。

世の中には、全体としては、メッセージ性を持った良質の音楽を作り続けているバンドもなくはない。しかし、先に挙げた4人のように、謳いあげる歌詞を体現し、聴衆の前に屹立し続けるアーティストは極めて少ない。いつまでも「後ろを振り返らずに二人で歩んでいこう!」というスローガン的な街角ライヴの世界に留まっていては、袋小路⇒解散という道しかない。

皆さん、溢れんばかりの愛で、身の回りの世界を埋め尽くしましょう。大切な人のことを思いやり、きめ細かな心配りをしましょう。好意のすれ違いを、恐れてはなりません。

なお、些細なことで喧嘩をしたことを重視しましょう。喧嘩の原因は、実は「些細なこと」ではないのです。異なる価値観という、大きな氷山の一角が衝突した「重大事件」です。軽く見ずに、速やかに修復しましょう。