孤独な独り暮らし

社会人になり独り暮らしを始めるにあたり、家を借りるのを家賃の安さだけで決めてしまった。木造平屋で汲み取り便所、ボロボロでとても汚い。夜寝ているとカサカサ音がして、天井からゴキブリがポタポタ落ちてくるし、壁にはガサガサと大ムカデが這うような家だった。

極め付けは大家さんで、僕が仕事中に部屋の電気がつけっ放しだったと合鍵を使って勝手に部屋に入って電気を消す。夜勤明けで雨戸を閉めて寝ていても、僕の部屋の軒下で野菜を広げて商売をする。これがひどくうるさい。さらに、給料日になると僕の部屋のドアをドンドン叩いて、

「家賃! 家賃払え!」

と喚き散らす。僕は一度だって家賃の支払いを遅れたことはないのに毎月催促してくる。だいたい昔のように給料日に現金でもらう時代ではないから、25日の朝に来ても現金は持ち合わせていないのに。

そんな生活を1年半続けたけれど「もう勘弁して」ということで別のアパートに引っ越すことにした。今度は2階建て6畳二間、キッチン・風呂付き、水洗トイレ。駐車場込で凄く綺麗。大家さんも温和で優しいし、家賃も安心の銀行引き落としとなった。

僕は19歳のときに千葉で独り暮らしを始めてから28歳までの9年間、親元を離れ生活していた。独り暮らしは時間も物も何でも自分のモノだし、家賃とルールさえ守っていればある程度何してもOKの、自分の城なわけだ。

学生の頃の孤独は非常に大切な孤独の時間で、自分のため、勉強のため、自分の未来を想像することもできる夢の時間。辛い思い出はほぼない。

けれど、社会人になってからの独り暮らしは違った。最初は仕事を覚えること、職場に慣れることで精一杯で孤独を感じる暇なんてないが、ある程度まで来ると、やたら孤独を感じ始めるようになった。

変則勤務で平日休み。他の友人とはほぼほぼ遊べないし、同僚は僕が遊ぶことはできない紫外線が降り注ぐ海でサーフィンやらボディーボードやらを興じていてまったく接点はない。

だから会社の同僚とは話も合わないわけで、僕は24歳のときに銃砲所持許可の免許を取ってクレー射撃を一人でするくらいの趣味しかなかった。それでも孤独を埋める穴は塞がらない。

いったん孤独で寂しいと思うとその勢いは止まらなくなるみたいで、いまにして思えばただの寂しん坊なだけであるが、悲しみと寂しさに打ちひしがれた僕は28歳で独り暮らしに終止符を打ち、実家の横浜市に戻ることとなった。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『僕は不真面目難病患者 ~それでも今日を生きている~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。