海辺の学校で

水平線に向きあうとき、なぜか思い出される記憶がある。

吹きつけてきた初秋の風が、佑子の開襟シャツの襟をひらめかせ、前髪を揺らした。それだけのこと。でもそのことを思い出すと、何だか微笑みを浮かべずにいられない。

佑子は高校一年の文化祭で、有志バンドのフロントに立った。ラグビー部の同級生の一人から誘われてのものだったけれど、ステージに立つために、生まれて初めて髪にカラーリングをしたり、肩を露出させた衣装を身に着けてみたりした。そのことで母の逆鱗に触れたりもした。その、バンドの打ち上げでのことだ。

メンバーには、ラグビー部のメンバーとは大分タイプの違う、茶パツでピアスだらけの男子もいて、最初はちょっと怖かった。でも終わってみれば、仲間たちと一緒にいられる心地よさに浸っていた。練習場所だった小屋の入り口にいた佑子からは、ドラムセットの陰にいた(もとい)の表情はよく見えなかった。今は佑子のパートナーだけれど、その頃はただのクラスメートであり、ティームメートだっただけだ。