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経済構造改革への貢献

住宅にしても、自動車にしても、携帯電話にしても、人口の数だけ行き渉れば、買い替え需要はあるものの、市場の急成長は望めない。真の経済成長とは、真面目に働く全員の実質賃金が上がり、それによって消費が増えることである。

必要なのは、新しく魅力ある産業の創出である。業務の効率化が進んで人員の余剰が出たり、業績が悪化したりした場合には、希望退職や配置転換が行われる。

企業が市場ニーズの変化に的確に対応するためには、失業対策や生活保障が手厚く、再就職のためのさまざまな職業訓練を無料で受けられる社会でなければならない。労働者は、従業員として企業に守られるだけでなく、国民として国家に守られるべきである。

医療や介護、保育等は、立派なサービス産業である。

上智大学総合人間科学部教授で厚生労働省年金局長、雇用均等・児童家庭局長を務めた香取照幸によると、2013年時点の日本の主要産業の市場規模は、情報通信産業80兆円、自動車、建設50兆円、医療産業40兆円、介護10兆円、不動産産業30兆円、大型小売店20兆円である。

地域医療と介護基盤の強化が達成できれば、2025年には市場規模は90兆円になると推計され、最も成長が見込まれる産業の一つでもある。またこの分野は全国あまねく需要があるため、一極集中はなく、地域経済の下支えをしているのであり、今や、社会保障(産業としての社会保障)を度外視した産業政策はあり得ない(『教養としての社会保障』 香取照幸 東洋経済新報社 2017年)。

超高齢化社会の中で、国民が医療・介護に関して不安なくサービスを受けられる体制を目指すのであれば、数百万人の雇用増が必要になるといわれている。

他方、今後低成長経済が続いていく中で、AI等の普及や、新興工業国の台頭の中にあるメーカーの工場部門から大量の就労者がはじき出されてくることが予想される。したがって、そうした人たちを医療・介護分野や保育・教育分野で積極的に吸収することが望ましい。

このことは単に失業者に仕事をもたらすだけにとどまらず、ダムや道路に代わって、成熟社会の公共財である手厚い医療や介護が新しい社会インフラとして整備されるということを意味する。このような構造改革を実現するためにも、BIや転職に当たっての就業支援、特にガテン系からIT系やサービス系への能力開発や職業訓練を手厚くする必要があると思われる。