そんな折、大学の友人のシュウに旅行に誘われた。傷心旅行として企画してくれたのだろう。十月に出雲に行くことになった。十月、出雲大社に日本中の神々が集まるそうだ。だから十月のことを旧暦で、出雲以外では「神無月(かんなづき)」、逆に出雲では「神在(かみあり)(つき)」と呼ぶ。神無月、もしくは神在月には、出雲大社に日本中から「縁結び」のご利益を求める人がやってくる。出雲大社のご利益なのか、御祭神である大国主のご利益なのかは分からないが、恋愛成就のパワースポットとして雑誌などで特集されることも多い。

俺はまだ失恋の痛みを引きずっていたので、積極的に旅行する気分でもなかったが、このままだと本当に何もしないで時間だけが過ぎていく気がしたので、誘いに乗った。

シュウは大学一年生の授業で知り合った同級生である。最初の授業で席が隣だった。授業の後、どちらかが「昼飯食べる?」と誘って大学のカフェテリアに行ったはずだ。その時以降、よくつるむようになった。

彼は専攻も違うし、一年時のその授業以外では接点は何もなかったのだが、大学で知り合った友人の中では今でも一番仲が良い。あの時たまたま席が隣同士じゃなければ、仲良くなることもなかったかも知れない。そう考えるとすごい偶然だが、友達になるきっかけなんて大概そんな些細なものではないか。

彼は俺がもともと第一志望にしていた新聞社に、記者として内定をもらっていた。俺自身も内定については人から羨ましがられる立場にあることは理解してはいるのだが、それでもやっぱり彼に嫉妬してしまう。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『金曜日の魔法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。