以前勤めていた会社に顔を出した。当時、「狭心症」のため周りに迷惑をかけた事があり、「心臓のバイパス手術」が無事終わり、元気であることを告げに来たのだ。

「こんにちは、久しぶり」

会う人が、明るく挨拶してくれる。

「久しぶり」

挨拶を返す。後ろの方から、会社の運転手さんが、大きな声で、

「元気ですか」

振り向くと、手を振っている。手を振るのは、私の癖で

「戻ってきたな」

と懐かしい感じがした。運転手さんとは気を遣わず話ができるため、イライラするときには私を落ち着かせてくれる。

「運転手さんこそ元気ですか。私は、心臓手術してから絶好調ですよ」

「分かります。声が違います。以前はもっと弱々しい感じでした。顔色も良いし」

「悪いところがないと良いね。元気なのが自分でもよくわかるよ」

「今は何をしているのですか」

「社労士の資格があるから、独立して自営。生涯現役だね」

「私を、定年になったら使って下さいね」

「そうだね……。わっはっは、わっはっは、わっはっは」

二人で、笑いあった。そんな日があれば、どんなに楽しいか遥か先のことを思った。

その後、現役時代に仕事を一緒にした何人かと歓談した。周りは、あまりにも元気になった私を見て、びっくりしている人が多かった。以前にもまして語気に強さを感じているようだ。

「動作も以前に増して俊敏」であると周りの人は言う。

「手術をすると、こんなに元気になるのですね。お酒もこれから飲めるから良いですね」

「現役の時あんまり元気すぎると所属員が委縮して力いっぱい仕事が出来なかったかもしれないから、ちょうど良かったですよ」

「私は、すごく仕事がやり易かった」

「バリバリやられたら、誰も一生懸命仕事しませんよ。お風呂も熱くなく温くなく適温がいい。当時は適温でした。良かったですね」

みんなは、色々なことを言う。話を聞いて、私の力の抜けた仕事ぶりが評価されていることを聞くと何と可笑しな話である。人の能力を発揮させることに私の「狭心症」が良かったとは、聞いてみないと分からないものである。

病気をせずに突っ走っていたら、頑固な私は、確かに周りに旋風をおこし、周りをあたふたさせたことであろう。人生とは、本当に分からないものである。

手術後元気になり、ドクターからもアルコールの許しは出たが、しかし、今後もアルコールは飲まない。暴飲暴食がたたり、夜遅くまでの接待でのアルコールで体がボロボロになってしまったことはわかっている。

心臓は、人間の動力源でもある為、心臓が良くなれば自然にすべての臓器が元気になる。

もっと早く、手術を決断しておけば良かったのかなと思う反面、この間に多くのことを学ぶことが出来た。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『明日に向かって』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。