次の日、ニホは久しぶりに講義に出てきた。件のコンパから十日は経つだろうか。知っている人間ばかりの場所なら、もう少し取り繕うかと思いきや、昨日と同じく暗い顔をしているので、私もさすがに放っておけない気になり、講義が終わった後、声をかけた。いつもならニホの方から私を見つけて挨拶してくるので、これは珍しいことである。

「ニホちゃん、久しぶり」

ニホがゆっくりと顔を上げた。

「ああ、なほ子ちゃん」

元気のない声である。

「あれから全然見かけないから心配してたんだよ。大丈夫?」

嘘である。心配など全くしていない。講義に出ていないことに気づいてはいたが、ニホにメール一つ送ってもいない。

「ごめんね。もう大丈夫」

ようやく笑顔を見せながら、ニホは答えた。あまり大丈夫という顔色ではない。

「やっぱり、あの神﨑とかいう男のことで、ショックを受けてたの?」

「うん、まあ、ね。結構、本気だったから……」

「ニホちゃん、あんななまっちろい男、どこがいいのよ。私なら願い下げだわ。男のくせに線が細いし、下戸だし、インドアだし、第一あいつ、医学部を脱落したんだよ?」

「なほ子ちゃん、もういいの。何となく駄目だろうと思ってはいたから。ただ、現実を受け止めるのに時間がかかっただけ」

「ニホちゃんみたいな良い子には、もっといい男がいっぱいいるよ。そもそも、そんなにニホちゃんが自分を追い込むような価値のある男じゃないでしょ? なんかクールぶっちゃって、感じ悪かったし」

これはお世辞ではなく、私はニホのことを、良い子だと思っている。ニホは、どちらかといえば地味な外見だが、人当たりがよく、人に嫌な感じを与えるということがあまり無い。ただ、腰が低すぎて舐められることも多い。