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ヤクザ

僕がTさんと遠距離恋愛していたことは前にほんの少し触れたが、そのときの出来事。

Tさんは静岡に住んでいて、僕は休みになると片道2時間、東名自動車道を車で走った。

その日、Tさんは仕事で僕に静岡駅前で遊んでいたらと言う。僕は、

「そうだね」

と返事をして、午前中からJR静岡駅近くでパチンコをしていた。

すぐ大当たりしてウキウキしていると、僕の肩をトントンする大男がいる。僕は

「警察かな?」

と思い、少し待ってくださいとお願いした。僕は童顔で背も小さいから未成年によく間違われる。

大当たりが終わり、待っていた大男の近くにいくと「免許証を出せ」と言うので免許証を出す。ちらっと見てすぐに返してきたが、その大男はヤクザだと名乗るのだ。

「え? 何ですか?」

「俺はヤクザだ」

理解が追いつかずもう一度聞き直したが、やっぱりヤクザと言っている。

「ガーン!」

と漫画のようにショックを受ける。頭がクラクラした。エラいもんに捕まった。

大男は腕を僕の肩に回して逃げないように掴んだ後、僕を駐車場に連れていった。そこで、

「これは俺のベンツだ」

と見せたり、僕を公衆電話に引っ張って、

「いまから言う番号にかけろ。俺の組事務所だ」

と無理矢理電話をかけさせ、つながったやいなやガシャンと電話を切ったりするのである。その後も、

「俺の仲間も静岡駅前にいる。俺はホテルに泊まっているんだ」

とホテルのロビーに連れていかれたり、喫茶店に連れていかれたり、本当にいろんなところに連れ回された。そしてついに、

「お前、金あるか? 金を下ろして来い」

と言ってきた。

僕は運悪く銀行のカードを持っていた。年末にまとめて定期預金にしたのでそんなにはないはずと思ったけれど、春のボーナスと2ヵ月分くらいの給料が預金残高としてあった。

大男は銀行のATMのそばまで付いてきて、

「変な真似したら殺すからな」

と脅した。

僕は観念して預金60万近くを降ろして渡した。しかしまだ搾り取れると思ったのか、次は、

「消費者金融で借りてこい」

と言うのだ。僕はもう震えていて言いなりになり、自動貸付機の前で限度額一杯の20万を渡した。

大男はこの金は返すと、とぼけたことを言っていた。午前10時頃に捕まって、かれこれ4時間近く。僕は恐怖と混乱で疲れ果てていた。

それでも僕を引きずるようにJR静岡駅前の大きなホテルのラウンジに連れていき、コーヒーをご丁寧に僕の分まで頼んでタバコを燻らす。

「しばらく待っていろ。仲間が金を持って来るから2時間は動くな」

と言って大男は足早に去って行った。いなくなった安心感でヘナヘナになった。もちろん、待てど暮らせど仲間なんか来ない。来るわけないのだ。

僕は、大男が吸っていたタバコの空き箱を、指紋などの証拠になるんじゃないかと思い、ポケットに突っ込んでホテルを後にした。