「江藤光夫さんが、生前に妻の金子さんに対して、死亡したら自分の全財産を相続させたいと口頭で伝えていたと聞いております。また、金子さんは再婚前の夫が、赤羽光夫さんと名乗っていた頃の家族構成や行われた事について、死亡した江藤光夫さんから何も聞かされていないから、まったく分からないと言っております。

また、妻の金子さんと再婚後に行われた、赤羽光夫の時期の実子からの遺産相続の内容についても、何も聞かされていないからまったく分からないと言っております。そして、再婚された2人の間に実子がいなかったのを確認できたので、これまでの事を鑑みて、妻の金子さんに全遺産を相続させる手続きを終了させました。今回の手続きに関しては有効であり、やり直す必要はないと考えています」

それを聞いて、姉が相手側の弁護士に質問を始めた。

「それでは、妻の金子さんに江藤光夫さんが書いた有効な遺言書は存在するのですか? 口頭で伝えていたというのなら、光夫さんの肉声が録音されているボイスレコーダーなどが存在するのですか?」

「いいえ。遺言書もボイスレコーダーなども存在しません」

「それではあなたが今、主張していた夫の光夫さんが、妻の金子さんに全遺産を相続させたい意思表示が証明できないじゃありませんか。ならば、法律が定めているように2人で遺産分割して相続のやり直しをするべきです。ちなみに、金子さんが相続された遺産の総額はいくらなのですか?」

「その質問に関しては、守秘義務の為にお答えできません。そして、遺産相続の手続きに関しては改めて有効であり、やり直す必要がないと主張します」

そのあともお互いの主張は、平行線のまま時間だけが経過していった。その状況を確認してから調停委員の1人が話し始めた。

「両方の主張は理解しました。今までの内容を厳正に精査して、次回の調停の時に解決案などを提案致します。本日はお疲れ様でした」

そう言って全員に退室を指示した。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『娘からの相続および愛人と息子の相続の結末』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。