ここで、厚生労働省の「平成30年 賃金構造基本統計調査」のデータをもとに、トラック運転手の賃金及び労働時間を例に考えてみよう。

全職業の平均(年間賃金497万円、年間労働時間2124時間)に対し、大型トラック運転手(457万円、2580時間)、中小型トラック運転手(417万円、2568時間)は、労働条件の厳しい業種であることがわかる。ちなみに年間80万円のBIによる時短効果を試算すると、全職業の平均では賃金1万円当たり労働時間は2124/497=4.27なので、4.27×80=342時間の時短が可能(年間労働時間1782時間)である。同様に試算すると、大型トラック運転手は452時間の減(2128時間)、中小型トラック運転手は493時間の短縮(2075時間)となる。

BIは労働生産性の向上にも寄与するだろう。BIによって景気が良くなり、設備稼働率が上がれば、分子は大きくなる。その一方で時短効果により分母が減れば、労働生産性は上がるのである。

休むことによって労働生産性を向上させるように社会をシフトすれば、人々の暮らしに余裕時間ができ、子どもと向き合う時間も増え、子どもの健全な発達や少子化対策にもつながる。

これまでより短い時間でも十分な所得が得られるようになれば、フルタイムとパートタイムの待遇の差が小さくなり、働く時間を選択する際の自由度が高まる。その結果、正規労働者、非正規労働者、失業者というように垂直的にワークシェアするのではなく、子育て、介護、家事、ボランティア活動等、BIによってみんなが多様な活動を行うような水平的なワークシェアリングに変わる可能性がある。

BIで最低限の所得が保障されると、地域活動や子育てを行うために非正規雇用を選択するというライフスタイルが増えてくるかもしれない。新型コロナ感染症のようなパンデミックの際にもワークシェアリングがしやすくなる。

現在は、収入を伴う活動しか、「仕事」と見なされていない。BIは無駄な残業を国が買い上げる効果や、主婦・主夫にとっては、家事、育児、看護、介護等の家庭内労働に国が賃金を支払うのと同じ効果がある。主婦・主夫は、エッセンシャルワーカーであることを社会はもっとはっきりと認識しなければならない。

精神科医でパーソナリティ障害の臨床に取り組む岡田尊司によれば、頑張って家庭をもち、子どもを産んだとしても、歓びよりも負担ばかりを感じてしまうようにならないためには、親子でスキンシップをして「愛着」の絆を築く時間が必要である。

また、晩婚化による親になる年齢の上昇が自閉症スペクトラムの増加の一因といわれるが、「愛着」が安定すれば、生きづらさを改善することができるという(『愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち』岡田尊司(角川選書) KADOKAWA/角川学芸出版 2012年)。

貧困世帯では、BIを給付されることで、福祉給付を失うことを恐れずに、パートタイムの職に就くことも可能になる。BIは、「やらねばならぬこと」だけの生活に、「やりたいこと」と「できること」をする自由を加えるための制度である。

家族や地域コミュニティとかかわる時間を犠牲にして長時間働いたり、社会生活の妨げになるような時間帯に働いたりせずに済むようにするのである。