第一章 宇宙開闢かいびゃくの歌

ハマーシュタインはインド人の製作者を身近に呼びつけ、小声で話し始めたが首を小さく振り、(きびす)を返して隣の監督、涯鷗州と目配せを交わした。涯鷗州は頷き、マイクを手にして答えようとし始めた。笹野たちは当然のように身構えた。しかしその時、司会者が口を挟んだ。

「今の質問は答える相手を指示しておりません。誰の答えを希望しておられるのか。質問者にお聞きいたします」

再度マイクを手にしたフォートワースが、

「私の質問は、映画全般に関わることとして発しました。では撮影所長のハービク氏にお答え願いましょう」

冒頭で挨拶したナーラーヤン・ハービク撮影所長がマイクを持って立ち上がった。

「お答えいたしましょう。監督の日本人涯鷗州氏は私の古い友人です。この撮影所で何本かのインド映画を撮られ、おかげでここベンガル州では好評でした。私は彼の映画監督としての力量に信頼を置いていました。その彼がある日、意を決したかのように、企画脚本を持ち込んできたのです。私はその企画の雄大さ、雄渾(ゆうこん)さに肝をつぶしました。

しかし、時の氏神とでも言いますか、見る見るうちに賛同者が増え優秀なスタッフ、協力者も集まり、撮影があれよあれよと言う間にスタートしていったのです。その後、進行していた撮影がいつしか外部に漏れて、制作途上での発表という本日の事態となりました。決して秘密にしていたわけではありません。私もこの映画には何かデーモニックな背後の力を感じてならないのです」