田中夫妻の子供は娘が二人いて、長女が春菜、次女が緑という名です。長女の春菜さんは、現在41歳で、44歳になる夫隆一と、小学校6年生の息子隆之との三人で名古屋市に住んでいます。夫はメーカーで働いており、春菜さん自身は名古屋市で小学校の教員をしています。息子は市内の小学校に通学しており、よく祖父母の家に泊まります。

春菜さんと隆一との仲はまずまず円満ですが、気難しい夫の突発的な癇癪には辟易しており、よく妹に電話で愚痴っています。とはいえ夫の面倒臭いところはその癇癪くらいであり、息子の隆之も素直ないい子で、勉強もそこそこできるし、運動もしっかりできるタイプで、あまり憂いのない生活を送っている方です。

次女の緑さんは現在39歳です。東京の大学に行ってからはずっと東京に一人で暮らしており、2度の転職を経て、今は大手損保会社にて管理職をしています。都心にマンションを購入し、会社までは自転車を使って通勤することもあります。

春菜さんとは非常に仲がよく、よく週末に名古屋にやってきては、お酒の飲めない春菜に代わって、隆一と一緒に晩酌を楽しむこともあります。姉妹は週に2回は必ずといった感じで電話をしています。

結婚はしておらず、今のところ予定もありません。両親のことを多少気にかけながらも、姉の春菜と義兄の隆一に任せておけば大丈夫と感じており、春菜さんの家にはよく立ち寄るものの実家には年に2、3回帰るのみです。

さて、このように平凡ではあるけれども、とても幸せな田中敬一さん、和子さん夫婦です。これまで、あまり病気に悩まされたことはないようです。元気な二人にはどのような病魔が忍び寄るのでしょうか。そしてどんな症状につきまとわれ、いかなる治療の選択に悩まされることになるのでしょうか。

これからお示しする敬一さん、和子さんの体の不調およびその後の変化は、比較的よくみられるモデルケースになります。人によっては全く違った様相を呈する場合があるのは当然のことです。

しかしながら、一つの例として敬一さん、そして和子さんの症状、そして彼らの選択がもたらす状況の変化を参考にしてほしいと思います。また、重ねてお示しする春菜さんらの迷いも一つの例にすぎませんが、肉親がこのような状況になったときに見せる典型的な思考、行動のパターンとして参考にしてください。

比較的幸せな彼女たちの困惑は、ある人にとってはとてもぜいたくな悩みかもしれません。あまり目くじらを立てずに、温かい気持ちで見ていただければ幸いです。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『改訂版「死に方」教本』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。