蘇る90歳老人の記憶

■トラウマを克服した

私も看護をしていますと、やりがいと無力感が交互に訪れます。患者さんが回復して感謝されながら退院される時は本当に嬉しいですし、逆に仕事とは言え、一所懸命尽くしても回復の見込み無く逝かれる方、極端なものですから……。

私が以前受け持った男性患者さんも、90歳以上と超高齢者で、ずっと寝たきりでした。食事も嚥下不良で口から摂取するのが難しい方でした。私はいつもドクターに「危ないので、早く経管栄養に変えてください」と、強く報告していましたが、ドクターは、「なるべく口から食べて、美味しさを味わった方が良いと思う」と言っていました。確かにその通りだとは思います。それでも心配でなりませんでした。

私達は、いつも交代で食事介助をしていましたが、ある日、私の番が回ってきました。患者様の飲み込むペースに合わせて、ゆっくり介助していましたが、その際、喉に詰まらせてしまったのです。緊急でドクターに報告して、掃除機を消毒し吸引し、指を喉に突っ込んで食物を吐き出させようと試みましたが、モニターでは心停止状態です。

心臓マッサージして10分経過しましたが、反応なく完全に死亡されました。家族の方も同僚も私を責める人は一人もいませんでしたが、私は罪の重さに苛まれ、暫く立ち直れませんでした。その後、司法解剖の結果、患者様は飲み込みが出来なかったわけでなく、その前に心不全が原因だったことがわかり、私の心は少しだけ救われました。医療現場の方は、常に注意に注意を払われていらっしゃるとは、お察ししますが、少しでもミスのないことを心より、お祈り申します。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『フランチェスカ昭子の手紙』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。