とにかく口座を開き、デモ(架空のお金で取引)にて練習を開始すると、投資の知識ゼロであるせいか、エントリーするタイミングが早すぎるのに、次々勝っていった。

そして、先生に優しくアドバイスされるたびに千夏に報告しては、

「そういうエントリー好きやね」

と笑われていた。「先生」に教わり、私が目指していたバイナリーオプションの戦法は、「逆張り」と呼ばれる、通貨ペアの上がり下がりの転換点を狙う、上昇、または下降の勢いが弱まり逆の勢いが出始める頃にエントリーして上がり下がりを当てるというものだった。

しかし、「先生」にその形と予兆となるシグナルを教えられていた私は、「これだ!」と思うと、すぐに上がり、または下がりのエントリーをしてしまったが、「ビギナーズラック」に助けられ、それほど負けは込まなかった。

千夏も、段々慣れてくると、「勝てたならナイスだね」と言ってくれるようになった。私はそのとき、儲けよりもこんな関係が続くことが嬉しくて仕方がなかった。

先生に、「彼女とはどこで出逢ったんですか? どういう関係?」と聞かれ、正直に、「ネットの出会い系サイトで出逢いました」と答えると、「時代ですね」と返された。

当時の私はデモ、つまりお金を掛けずに実際の相場で練習をしていたが、千夏は一回に2万円を掛け、倍近くに資産を増やしていた。

そのため、夕方ごろに、「今日はどう? 私は1勝1敗だよ」とLINEを送ると、「今日はすでに儲けが出たよ!」と返ってくることが多く、また、先生と同じようにアドバイスをくれるため、先生に教えられてわからないところは千夏に聞いていた。

ある日の夕方、金曜日にバイナリーオプションを(デモで)やろうとした私は、千夏にそのことを伝えると、「私はやらないよ」と言われた。「何で?」と聞くと、「金曜日の夕方はやらない。恐い気がする」と言うのだ。

確かに、バイナリーオプションは月曜日から金曜日しかできないので、週の最後となると、投資家たちが最後の追い込みに入り、為替がよく動くのかもしれない。この話を聞いてから1年くらいは私も金曜日の夕方は避けて、今でも慎重にエントリーするようにしている。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『バイナリー彼女』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。