「バイナリーオプションで、中小企業の課長くらいは稼いでいるよ。月に40万円くらいかな」

バイナリーオプションが何かは知らなかったが、当時の私にはそれがとても魅力的に映った。何せ私には精神障害があり、障害者枠で転職したばかりで入社1年目、手取りにして13万円弱である(障害年金を受給し、何とか生活を成り立たせていた)。

しかし、投資なんて初めて聞くような言葉であり、体験しなくても難しいのはわかっていた。とりあえず返した言葉は

「うちの兄もFXの勉強をしているよ(汗)」

そうなのだ。私にとってはまったく未知の領域であるが、大学の経済学部を優秀な成績で卒業し、FXの本を何冊も読み漁っている兄にはそれほど特殊な世界ではないかもしれない。

FXとは、外国の通貨を売買し、その差額で利益を出す取引だ。例えば、1ドル100円のときにドルを購入し、1ドル120円のときに円に戻せば、20円の利益が出る。さらに、「レバレッジ」と呼ばれる仕組みがあり、資本金の何倍ものお金を取引額として使える。

株などと違い、24時間取引が行えるのもFXの特徴だ。しかし、元本保証はされておらず、資本金だけでなく、取引額以上の損失を抱える可能性もある。

私は兄の勉強のおかげで精一杯の意地を彼女に張れたわけだが、彼女の反応は意外なものだった。

「何なら、先生を紹介しようか?」

たぶん、私が興味大ありだと見たのか、はたまた兄に置いて行かれる私を不憫に思ったのか、どちらにしろ彼女の思いがけない優しさに驚いた。私は迷ったが、すぐ兄に相談した。

「バイナリーオプションっていうのを教えてくれる人がいるけど、どうしよう?」

「それが怪しいものでなければ、やってみても良いと思う」

「わかった。ありがとう」

兄の一言でやると決めた。

※本記事は、2020年9月刊行の書籍『バイナリー彼女』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。