畦上は寮の近くの『やまと』という日本食レストランで毎晩のように食事をしていたが、そのレストランで働くティナというウェイトレスを好きになってしまう。

付き合いを申し込みその後デートを重ねプロポーズに至るまで、二ヵ月半という超スピード婚だった。それはティナが身持ちの堅い子で、結婚まで貞操を守らねばと考えていたからだ。

畦上も早く二人で生活をしたいと思うようになり結婚を急いだ。

結婚式は行わなかったが、ヌエヴァエシハ州のカバナトゥアン市に住む彼女の両親の元へ結婚の許可を得るべく挨拶に行き承諾を得た。

畦上は寮を出て、会社に通いやすい場所にあるアパートに新たに部屋を借り新婚生活をスタートさせた。そこで二人は初めて結ばれた。そして、幸せな生活が続くだろうと思われたのだが……。

二人だけの生活が始まって一週間くらいたった頃だろうか、ティナの姉がマニラに仕事を探しにやって来た。仕事が見つかるまで置いてくれという話になる。

畦上はティナの手前ノーとは言えなかった。その三日後今度は二人のいとこがやって来た。三〇歳近い女と二〇歳前後の男だった。二、三日置いて欲しいというので、畦上は許した。

その数日後、ティナの弟が訪れ、更には義理のいとこ数人もやって来た。中にはいとこの奥さんの姪とかいう子も現れた。家計図を描いてもらわないと理解できないような人間関係だ。

このような居候たちは入れ替わり立ち替わり出入りを繰り返し、常時七、八人は居るようになった。畦上が借りている部屋は六〇平米くらいのフラットで、畦上とティナはキングサイズのベッドで寝ていたが、居候たちは床に雑魚寝していた。

こんな調子なので、夜の愛情確認行動もできやしないし、ティナとの新婚気分は全く吹き飛んでしまった。

二人だけの時にティナに居候たちに出ていって欲しいと言うと、ティナは涙を流しとても悲しそうな顔をする。そんなティナの顔を見ると畦上はそれ以上何も言えなくなる。そんな訳でなし崩し的に居候たちとの生活は続いたのだった。

休みの日に畦上は居候たちの行動を観察していると、それぞれ何かしらの分担を持ち行動していることが分かった。部屋の掃除をする者、洗濯をする者、買い物に行く者、料理を作る者など、それぞれが皆ティナを助けているではないか。

居候たちはマニラに仕事を探しに来ているのだが、現実問題そう簡単に仕事にはありつけないようだった。それなら少しでも彼らを助けてやろうと、畦上の心は動いていた。でも、ティナとの二人だけの空間も欲しい。

そこでアパートのオーナーに相談すると、同じ建物内に広さのほぼ同じ部屋だがベッドルームとリビングを壁で隔てた部屋が空いているというので、今の部屋のリース契約をしたばかりだが、追加金なしの同条件で部屋を換えてもらうことができた。

引越し作業のほとんどは居候たちがやってくれた。

畦上はもしも自分がティナとこの先どん底の状態に陥った時、彼らの内の誰かが助けてくれるのかもしれないとふと思った。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『サンパギータの残り香』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。