現代ニッポンの『エミール』

※ 投稿者  最近よくテレビで見かける、某一流大学の准教授 四一歳

※『エミール』とは……

十八世紀後半に刊行された、ルソーの代表的な著作であり、近代教育学の古典

私は我が子を心から愛している だから この子に苦労なんかさせない

何でも買ってあげる 送り迎えもしてあげる 家事の手伝いもしなくていい

ママが全てやってあげるからね

私は我が子を心から愛している だから この子を叱る教師は許せない

この子に非があるなんて この子につらい練習をさせるなんて

私は我が子を心から愛している だから この子の言うことは何だって信じる

この子の不満の原因となっている人間が周りにいたら 攻撃する 排除する

ママが守ってあげるからね

……やがてかわいい我が子は 社会で使いものにならない 弱い大人になった

私は我が子を心から愛している だから この子に苦労をさせる

部屋の掃除も宿題も自分でやらせる お小遣いは少額にして我慢を覚えさせる

相談には乗るけど 最後は自分で決断させる

私は我が子を心から愛している だから この子を厳しく叱る教師に感謝する

この子の欠点を自覚させてくれるし つらい練習をあえて課すことで鍛えられる

私は我が子を心から愛している だから この子の言うことでも疑う

自分に都合の悪い情報を隠すために 嘘をついているかもしれない

間違ったことを言っていたら 言い訳をしていたら 「クソババァ」と反発されても

反省するまで 懇々(こんこん)と言い聞かせる 被害者がいたら すぐに一緒に頭を下げに行く

……やがてかわいい我が子は 社会から必要とされて活躍する 強い大人になった

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『愛は人を選ぶ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。