六月二十六日 火曜日

少女と動揺とポニーテール 2

「ポンちゃん、ちょっと待ってよ」

昼休み。わたしは、マオといっしょに、二階にある2-Aの教室に向かっていた。

一年生が、教室棟の二階、三階に足を運ぶことはめったにない。2-Aの教室に行くのは、入学して早々に、思いきって先輩に会いにいったとき以来だ。あのときも、もちろんめちゃめちゃ緊張したけれど、そこには、先輩と再会できるうれしさが隠れていた。

今日の緊張は、それとはまるで種類がちがう。一歩進むごとに、不安という名の森が深まっていく。いつものわたしなら、もうすでに足がすくんで、引きかえすことばかりを考えはじめているはずだ。だけど、そんなことを言ってる場合じゃなかった。噂とまた聞きでサキ先輩を疑うなんて、そんなこと、わたしにはできない。

「わたし一人で行くからいいって、言ったじゃない」

「ポンちゃん一人で行かせられないよ。わたしをそんな薄情な友だちにする気?」

「薄情なんて、そんなこと思わないよ」

わたしと並んで歩きながら、マオは「やれやれ」とつぶやいた。

「わたし、ポンちゃんのこと、見くびってたよ」

「なに? その失礼な言いかた」

「言葉のあやだから。ゆるせ」

「うん、ゆるす」

そう言うと、マオが少しだけ笑った。今日、初めて見るマオの笑顔だ。

「わたし、ずっと()じ気づいてたから。ほんとのことなんか知りたくないって。ポンちゃんが、こんなに強いなんてさ、今まで思ってなかった」

「わたし、強くなんかないよ」

小さく笑って首を振る。

「ただ、少しでも強くなりたい。そう思ってるだけ」

「もしかして」とマオが言った。

「え?」

「よく会いにいってる1-Bの彼女の影響?」

わたしは、はっとして足をとめた。

「うーん……どうなのかな。そうだね、たしかに、忍耐力はついてきてるかも」

「そっか」とポンちゃんが笑う。

「……ねえ、今度さ、わたしにも彼女、紹介してよ」

迷うことなく「うん」とうなずき、わたしはマオに笑顔を返した。